ぼくらの家路 (2013):映画短評
ぼくらの家路 (2013)ライター2人の平均評価: 4
大人になれない大人と、子供ではいられない子供
突然連絡の途絶えた母親を探して、10歳の少年ジャックが幼い弟を連れてベルリンの街を彷徨う。大人になれない若いシングルマザーに育てられ、大人にならざるを得なくなった子供を描く作品だ。
子供への愛情はたっぷりだが、ついつい恋愛や夜遊びを優先させてしまう未熟な母親。いや、彼女だけでなく周りの大人たちもみんな、子供を守れる器じゃない。そんな中、まだまだ甘えたい年頃にも関わらず、孤独も悲しみも不満も怒りもグッとこらえて責任を全うしようとするジャックが健気で、そりゃもう胸を締め付けられる。
とはいえ、物語は必ずしも暗くない。むしろ、少年時代との決別を自覚したジャックの逞しさにエールを送りたくなる。
明るい赤、青、黄の色がいつも画面にある
歩き続ける10歳の少年の、Tシャツとジャンパーが赤で、ジーンズが青。彼がつれて歩く6歳の弟の髪が明るい黄色。その鮮やかな色彩が常に画面にあるので、まだ幼い少年2人が、いつもいなくなってしまう母親を探してベルリン中を歩きまわる光景が、暗いものにはならない。「ケス」「イゴールの約束」の系譜の少年映画だが、この映画は彼らを取り巻く状況を、悲惨なものには描かない。母親は子供を放置するが、彼らを愛している。周囲の大人たちは役に立たないが、彼らなりに少年たちを気遣っている。少年はそんな状況を見据えながら歩いていき、生き延びるための決断をする。その姿を、カメラは光のある映像で静かに映し出す。