団地 (2016):映画短評
団地 (2016)ライター4人の平均評価: 4.3
ナイスキャスティング!の斎藤工
阪本順治監督、57歳にして新境地開拓。いや、1周して原点に戻ってきたかのよう。初期大阪作品の人情喜劇テイストを踏襲しつつ、まさかのSF(爆)。『北のカナリアたち』(12)など硬派を経て、良い意味での開き直りが大胆で自由な発想を開花させたのだろう。出演者は阪本作品を支えてきたいぶし銀の俳優たち。そこに新たに投入された斎藤工が不協和音を奏で、全く予測出来ない展開へと導いてくれる。
最近団地映画が多いが、ここにも阪本監督らしさが現れている。団地付き合いは厄介だけど、ご近所さんを放っておかずにはいられない。人は寄り添い、支え合いながら生きている。そんな人間賛歌に溢れている。
団地は人生の縮図、なんて小さな世界観が吹き飛んだ
坂本順治監督に藤山直美と岸部一徳がW主演した段階で、さびれた団地における人間関係のしがらみを人間讃歌に集約させるドラマかと勝手に想像してたから、ぶっ飛んだ。いや〜、監督の発想のユニークで愉快なこと。主役の夫婦の心の傷を明かしつつ、団地の人間関係に嫌気がさした夫が引きこもりになる展開は人情コメディ調だが、そこに日本語が不自由な謎めいた青年の秘密をぶち込むことでジャンルをがらりと変えてしまう手腕が素晴らしい。しかも唐突感や違和感はまったくない。奇想天外ではあるが、人間の死生観も感じさせる深おもろい話なのだ。
人生の可笑しさと悲しさを滲ませる不条理喜劇
阪本順治監督と藤山直美のおよそ16年ぶりとなるコンビ作は、古びた団地を舞台にした不条理喜劇。星新一や筒井康隆の短編に影響されたそうだが、まさにそんな人を食ったような奇妙な味わいの作品だ。
隣人による根拠のない噂話が警察沙汰の騒動へと発展し、狭い共同体のご近所トラブルが宇宙規模の壮大(?)な話へと繋がる。荒唐無稽な飛躍が日常と非日常の表裏一体を象徴的に印象付け、その曖昧な境界線から人生の可笑しさと哀しさが見え隠れする。
確かにとっつきやすい話ではないし、重量級の「顔」から一転してだいぶライトな印象だが、しかし人間を見つめる視線は鋭く深い。阪本監督の新境地とも言えるナンセンスな笑いも絶妙。
人情喜劇から“何処か”にトリップ
『顔』から16年を経て、阪本順治監督と藤山直美の再タッグがこんな狂った作品で実現するとは、誰が思っただろうか? そのブッ飛び方は「監督、変な宗教(もしくはクスリ)でもやってんじゃない?」と心配してしまうほど! とはいえ、監督が目指したのは、星新一のショートショートと聞けば妙に納得。藤山と岸部一徳による「これぞ夫婦漫才!」な小気味よい掛け合いに魅了されたかと思えば、冒頭から不穏な空気しか醸し出してない斎藤工(『高台家の人々』より明らかにハマり役!)の導きから、人情喜劇の枠を超えた“何処か”にトリップ。『海よりまだ深く』よりガチな団地映画にもなっており、近年の阪本作品が苦手だった人ほどハマるはず!