美術館を手玉にとった男 (2014):映画短評
美術館を手玉にとった男 (2014)ライター2人の平均評価: 3
全米の専門家を騙した贋作者の奇妙で切ない素顔
30年間に渡って全米の美術館に贋作を無償で寄贈し続けた男性マーク・ランディスの、世にも奇妙な人物像に迫るドキュメンタリーだ。
本物とみまがう技術力で多くの専門家をまんまと騙したマークだが、しかし彼には金銭欲も名誉欲もなければ、そもそも自分の行為が犯罪だという自覚すらない様子。まるで善行を積んでいるかのように満足そうな笑顔を浮かべる姿は、常人には理解しがたいものがある。
しかし、カメラに向かって語る本人の言葉に耳を傾ければ、やがて贋作活動に込められた彼の想いが垣間見えてくるだろう。描くのは他人の絵を完コピした偽物だけど、創造の原動力と情熱はある意味で本物。その大いなる矛盾がちょっと切ない。
贋作作家の謎に満ちた行動を読み解くのが楽しい
篤志家や神父、遺言執行人を装ってさまざまな贋作を46もの美術館に寄贈した男がいた! 驚愕の事実から美術界の権威を問うのかと思ったらさにあらず。マーク・ランディスの半生から彼が贋作製作を始めた過程や犯罪めいた趣味がバレるまで、その後の意外な展開が当事者の言葉で綴られる。まさに「事実は小説より奇なり」という物語だ。驚愕の事実に輪をかけて奇妙なのが贋作者マーク自身で、物があふれる家での生活や贋作作りから精神科での診断などすべてをカメラにさらすのに、パフォーマンス・アートかと思える謎めいた寄贈の理由だけは明かさない。なぜ? 監督があえて突き詰めなかった彼の心情を読み解くのが本作の醍醐味でもある。