お父さんと伊藤さん (2016):映画短評
お父さんと伊藤さん (2016)ライター2人の平均評価: 4.5
笑って共感してちょっぴり泣ける、現代人へのささやかな応援歌
30代、独身、職業バイト、なんとなくウマの合う中年オジサンと同棲中。そんなヒロインのもとに頑固一徹な父親が転がり込んだことから、パッとはしないけど穏やかな日常にちょっとした波瀾が巻き起こる。
不器用で素直になれない親子の触れ合いとすれ違い。随所でさりげなくブラックなユーモアを散りばめつつ、今の世相や現代人の悲哀をリアルに浮かび上がらせる語り口は絶妙だ。
中でも、藤竜也扮するお父さんへ注ぐ眼差しの暖かさに共感。何事も若い頃のようにいかないもどかしさ、老人扱いされることの不満と寂しさ。真面目に働き懸命に生きてきた男の、そっと胸に秘めた誇りとプライドにグッとくる。
終活を考えてほしい親世代と見るべき傑作
身近な男となんとな〜くくっつき、平凡に暮らすアラサー女性は多いはず。夢の実現とは無縁で、日々生きていければいいと思うヒロインを上野樹里が等身大感覚で演じていてすごくいい。偏屈な父親のあしらい方とかそんな父となぜか気が合う恋人の伊藤さんにイラ突く感じとか説得力がある。義姉のストレスといった深刻な問題も笑いを混ぜてサザエさん的に着地。日常の延長で起きた事件を描くのがタダナユキ監督は上手で、親戚宅のエピソードを見る感じで物語に引き込まれていく。そしてダメ男に思えた伊藤さんの達観と父親の決意によって親世代の終活を考えさせるエンディング。4コマ漫画かと思ったら素晴らしいメッセージが隠れていた傑作だ。