フィフス・ウェイブ (2016):映画短評
フィフス・ウェイブ (2016)ライター4人の平均評価: 3
もはや食傷気味なYA小説の映画化
流行りのディストピアを舞台にしたYA小説の映画化ということで、『ザ・ホスト 美しき侵略者』以上に、実力派若手女優におんぶに抱っこ。予想通り、今が大切であるはずのクロエ・グレース・モレッツのキャリアに大きな傷をつける仕上がりになった。パニック映画としての見せ場は序盤で終了。いくらサバイブする少女の成長物語がメインで、観客に委ねるような不穏な空気感が売りとはいえ、地球外生命体<アザーズ>について、あまりに明かさなさすぎるのは如何なものか。そのほか、いきなりのラブシーンなどツッコミどころ満載で、独自のセンスが光った『アリス・クリードの失踪』から7年ぶりのJ・ブレイクソン監督作と思いたくないほど。
クロエちゃんの愛らしさに救いをみた
『トワイライト』『ハンガーゲーム』以降のYA小説原作作品のフォーマットを、エイリアンの地球侵略という設定でやってみました……といった方向性のSFサバイバル劇。
コンセプトの新鮮さは買うが、いかんせんフォーマットが古びているのが難点。ヒロインをめぐる三角関係やセクシーな見せ場の強調など、YA特有の要素に既視感を覚えずにいられない。何より、異星生物の計画の底の浅さが見えてしまう点はSF映画としては減点。
とはいえ、幼さが先行するクロエの個性は、ヒロインが妙に大人びている他のYA作品に比べると独特。愛らしさがこぼれ落ちる彼女を見ていると、アイドル映画としてはアリか、と思えてくる。
不穏な時代の怪作として注目
YA系定番、毎度おなじみのティーン向けのサバイバルSFだが、ブームの後発作らしい異様さに満ちている。ディストピアの暗黒っぷりが突き抜けて凄まじいのだ。
災害、テロ、軍の大人たち……あらゆる恐怖がつるべ打ちされ、不条理な外圧&脅威は全て「アザーズ」と定義される。子供たちが少年兵として過酷な戦場に駆り出されていく展開は被害妄想的なヴィジョンなのだが、この悪夢の形には、例えば『ジョニー・マッド・ドッグ』で描かれたような米国の裏側にある世界の現実が透けて見える。
流行モノは時代の写し鏡という点が最も重要だろう。その意味で本作は、キナ臭い現代の「不安」そのものの映像ドラマ化として見過ごせない。
普通の女の子、クロエ・グレース・モレッツの魅力が輝く
この映画は、クロエ・グレース・モレッツの魅力をよくわかっている。昨今の彼女は、悪女的な役柄にも挑戦しているが、本作の彼女こそ本筋。状況がどんなに過酷になっていっても、彼女は両親と弟が大好きな普通の女子高生のまま変わらない。変わらないことで、彼女の魅力がより輝やきを増す。逃走のため走り回っても、走る姿はあまり速そうではなく、足に筋肉がつくこともなく、痩せることもないのは、そのほうが、彼女が大腿に負傷して手当てをされるときに、観客がそのやわらかそうな形に、ドキドキすることができるからだ。地球外生命体による地球侵略の最中でも決して損なわれることのない、クロエの魅力が堪能できる。