リップヴァンウィンクルの花嫁 (2016):映画短評
リップヴァンウィンクルの花嫁 (2016)ライター3人の平均評価: 5
こんなケタ外れの泣き笑いラスト、観たことない。
上映時間3時間! でも心配無用、ずっとこの時間が続けばいいとさえ感じさせる岩井俊二の会心作。周囲から軽視されがちだが波風を立てることなく生きてきた主人公に黒木華。大邸宅の住み込みメイドとして働くことになった彼女と魅かれあう謎の同僚にCocco。このふたりの圧倒的に自然体なコンビネーションが “生きる苦しみを一周回ったようなポジティヴさ”を発散し、ちょっと経験したことがない種類の爽快さを与えてくれる。直接的に3.11は出てこないが、漠然と漂う虚脱感や目的意識の喪失感は、間違いなくあの日以後の世界ならばこそ。社会の裏側に精通し敵か味方か判然としない“なんでも屋”を綾野剛が怪演。
ライク・ア・ローリング・ストーン、OK
ポジティブな転落。これはヒロインから彼女なりのサバイバル術だった「愛想笑い」を剥ぎ取るまでの物語と言えようか。ブルーにこんがらがった社会のコードから外れる事で視野も自由も開けていく。
日本全体の閉塞を見据える射程の大きさは『恋人たち』と比較できるが、橋口亮輔の深みへ降りていく凄みに対し、岩井俊二は「浅さ」を掬い取る難技にこそ世相の澱みに向けるハードコアな眼力が発揮されていると思う。
自ら「浅さ」の権化と化したワルい賢者=綾野剛のメフィストフェレスぶりは見事だが、筆者が気になるのは彼にマザコンの一言で片づけられた鉄也(地曵豪)。彼も冒険に出ようよ。岩井俊二の「男性学」的な映画が観てみたい!
文句なしに素晴らしい、未体験の180分
なんでも屋にしろ、擬似家族にしろ、扱われるテーマは決して目新しくないのに、岩井俊二監督の手により、未体験のジェットコースタームービーと化す。世間知らずのヒロインがアリスのように冒険するファンタジーだけに、黒木華版『四月物語』にも見えるが、あんなヤワな話じゃない。虚実が入り混じる現代社会で生きる人間の生も死も、性も描かれ、セクシー女優目当ての男性客は、ガチで打ちのめされるはず。あの黒木相手に、後半ガッツリさらって行くCoccoの演技はもちろんスゴいが、あんな口説き文句を発し、子ども相手にてんてこ舞い、ラストのりりィとの絡みで胸を貫く綾野剛がとにかくヤバい。怒涛の180分、文句なしに素晴らしい!