レジェンド 狂気の美学 (2015):映画短評
レジェンド 狂気の美学 (2015)ライター3人の平均評価: 3
トム・ハーディのスター映画として見るべし
ロンドンの裏社会に名を馳せた実在のギャング、クレイ兄弟の物語は、過去に「ザ・クレイズ/冷血の絆」(’90)として映画化されたことがある。
あちらは当時の人気ミュージシャンで本物の双子ケンプ兄弟を起用して話題を呼んだが、こちらは旬の役者トム・ハーディが顔はソックリだが個性は対照的な兄弟を巧みに演じる。ハリウッド産ギャング映画風のスタイリッシュな演出も悪くない。
ただ、これは’90年版にも言えることなのだが、作り手側が史実を通して何を描きたいのかが全く見えてこない。恋愛ドラマとしてもギャング・サーガとしても中途半端。ハーディの大熱演が光るだけに惜しまれるところだ。
“血は水よりも濃い”双子をトム・ハーディーが熱演
『ザ・クレイズ/冷血の絆』とは違うアプローチを選んだブライアン・ヘルゲランド監督だが、ギャング兄弟の兄レジーの妻フランシスを語り手としたのは失敗かも。幼妻の視点が「夫はいい人、弟ロニーは狂人」と浅いのだ。精神疾患と開き直るロニーと常軌を逸する弟に手を焼きながらも結局は暴力に着地するレジーはDNAレベルで結びつくコインの裏表であり、それがわかっていたのは母親だけだったはず。まさに血は水よりも濃し。語り手はやはり母親が最適だったのでは? とはいえ、一人二役でクレイ兄弟を演じ分けたトム・ハーディーの狂気をはらんだ表情演技が素晴らしいし、脇を固める役者陣も強面が揃っていて雰囲気はばっちり。
"伝説"だけが持つ輝きを放つ
この映画が描くのは、映画の原題通り、レジェンド="伝説"だ。実在した双生児のギャングを描くが、追求するのは彼らの"実像"ではなく、彼らの"伝説"。この双生児ギャングは、大物だった時期がわずか数年しかないのに、なぜ伝説となったのか。それはどのような伝説なのか。その伝説はなぜ、今も輝きを失わず語り継がれているのか。映画はその"伝説"の真髄に迫っていく。
60年代のロンドン。貧民街で育った兄弟。固い家族の絆。ハリウッド映画で学んだギャングのスタイル。高級店で仕立てたスーツ。アメリカ製の大きな車。それらが「ターナー、光に愛を求めて」のディック・ポープの撮影で、伝説だけが持つ輝きを放つ。