アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場 (2015):映画短評
アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場 (2015)ライター4人の平均評価: 4.3
コロナ禍の今、見直すべき理由がもうひとつ増えた
大量テロを阻止するためには、少ない命を犠牲にしていいのか。そこにプロパガンダをからめるのは?英米の政治、軍事関係者が舞台裏で悶着を続ける今作は、サスペンス映画としても、問題作としても上出来。もともとは男性として書かれていた役をヘレン・ミレンにオファーしたのも、時代の先を行く選択だった。さらに、コロナ禍の今、注目すべきは、主要キャストがみんなヴァーチャル共演していること。予算の関係で、ミレン、ポール、リックマンらは、一度も顔を合わせることなく、別々の時期に撮影しているのである。ストーリー的にそれが可能なのが大きいが、この時期、ぜひ参考にしたい作品だ。
空爆にいたるメカニズムにサスペンスが宿る力作
中東の空爆で民間人が犠牲になったというニュースを目にする見る度に胸が痛むが、そんな結果にいたるメカニズムを明かした点で、興味深く見た。
英国軍司令室が内閣に許可を得て空爆を命じ、米国のドローン・パイロットがそれを遂行する。そのプロセスには司令官、政務次官、外務相に加え、パイロット、現地の工作員らさまざまな人々の思惑が絡む。彼らの主張のぶつかり合いや葛藤はスリリングで、軍事サスペンスの醍醐味が宿る。
民間人の犠牲、パイロットのPTSDなどの問題を見据えた社会派ドラマの側面も歯応えアリ。『エンダーのゲーム』を思い出したが、あのような設定がもはやSFではなく現実であることが怖くなった。
「問い」そのものの形をしたディスカッションドラマとしても完璧
ズーンと来た…。対テロの国家的手続きを描いて極めてロジカルな作りだが、映画としてはむしろ情緒に訴えかけてくる所が凄い。今そこに居るひとりの命か、今後推測される大勢の犠牲か。個の尊厳か、大枠の倫理か?等について「あなたならどうする?」という個人的な判断(それは“生き方”と言ってもいい)が問われるシミュレーションとして機能するのだ。
「安全な戦場」との邦副題は、兵士の内的な破壊を見据えた先行の『ドローン・オブ・ウォー』の方がフィットしているかも。こちらは「現代」のみならず、戦争という人類の宿業の根っ子にまで降りている。同時に昆虫型ドローン(バグボット)など軍事テクノロジーの“進化”にゾッとした!
テクノロジーは進化しても戦争の本質は変わらず
軍用ドローンの倫理的な問題点に迫る映画としては、ドローンを操縦する現場当事者の葛藤に焦点を当てた『ドローン・オブ・ウォー』が先にあったが、こちらはドローン攻撃を巡る各国の思惑や複雑な指揮系統を群像ドラマとして全体から俯瞰することで、いわゆるドローン戦争の構造と実態を分かりやすく浮き彫りにしていく。
とはいえ、善悪を一方的に決めつけることなどはしない。その判断は観客の手に委ねられる。攻撃する側だけでなく、される側の視点も織り込むなど、徹底された中立性がリアルな説得力を生む。結局のところテクノロジーは進化しても、国家の都合で人が人を殺すという戦争の本質は変わらないことを思い知らされる。