光 (2017):映画短評
光 (2017)ライター4人の平均評価: 3.8
水崎綾女、ついに化ける。
視力を失うカメラマンという設定はありがちだが、その相手に映画の音声ガイド作成者を持ってくる着眼点は、さすがの一言。それに加えて、スチールカメラマンの百々新が捉える情景は興味深く、エリック・ロメールばりなラストはかなりの力技で持っていく。前作『あん』の直球さには戸惑いを覚えたものだが、今回はやや復活した河瀬節が評価の分かれどころ。ガチでパルムドール狙ったか、『ピアノレッスン』を意識したような楽曲が邪魔してしまった感も否定できない。個人的には『俺たちに明日はないッス』のヒロイン3人が10年の月日を経て、揃いも揃って、いい女優になったことが、感慨深かったりする。
光をキーワードにコミュニケーションの本質を探る
失われ行く視力に心を閉ざしかけた天才カメラマンと、映画を言葉で伝えることの難しさに悩む音声ガイド作成者の女性。それぞれが暗い闇で迷い苦しみながらも、お互いの中にささやかな希望の“光”を見出す。
暗がりのスクリーンに映画を映し出す光、日々の生活を明るく照らす光、人生を導いていく光。多義的な“光”という言葉をキーワードに、人と人が理解しあうこと、引いては映画で何かを伝達すること、すなわちコミュニケーションというものの本質を、眩くも繊細な筆致で丹念に模索していく。
じわじわと胸に滲みこむ映画。ただ、以前の河瀨作品に見られた厳しさが影を潜め、いささか感傷的に過ぎるという印象も否めない。
レビューを書く手も震えるよ
河瀬監督の中でも特別な傑作になったのでは。映画の音声ガイド、という起点から真摯に重ねられる思考。「視覚」を主題に置くと映画は自動的にメタ化する(=映画論として語れる)が、そのお約束に安住しないのが凄い。映画や世界の大きさに、それでも「言葉」で食らいつくにはどうしたらいいのか? この難問を巡り水崎綾女が一本の映画としつこく格闘する事で肉迫していく過程に胸打たれた。何よりこういう批評を書く行為が試されてしまう!
男女の出会いの形なども含めて石井裕也の『映画 夜空~』と比較すると面白い。加えてここにはアーティスティックな問題がある。「これは俺の心臓なんだ」とカメラを抱える永瀬正敏はもう圧巻!
映画も一種の光だ
まさに光の映画。さまざまな密度と硬度の光が、描かれていく。曇天に満ちる鈍い光。部屋に差し込む陽光のプリズム。夜の街灯の弱い光。降り注ぐ激烈な夕陽。その光の多彩な味わいをカメラが映し出す。
そして映画もまた透過光という一種の光であり、本作は映画というものについての映画でもある。ヒロインの仕事は、視覚障碍者のために映画で起きていることを言葉で説明する「音声ガイド」の作成。その試体験をする視覚障碍者は"自分たちはスクリーンを見ることはないが、映画の中に入り込んでそれを体験する"と発言する。そのパラドックス。本作は、スクリーンを見るとはどういうことなのかという問いをまっすぐ突きつけてくる。