はじまりへの旅 (2016):映画短評
はじまりへの旅 (2016)ライター2人の平均評価: 3
教育に理想主義を持ち込むのは諸刃の刃かもしれません
資本主義の消費社会に背を向け、大自然の中で6人の子供たちを厳しく育てる父親。そんな’70年代ヒッピーさながらの一家が、母親の葬儀に参列するべく初めての長旅へ出たところ、強固だった家族の関係にほころびが生じていく。
汚れた文明社会に触れさせまいと子供たちを世間から隔離し、己の崇高な左翼的イデオロギーを徹底的に教え込む主人公。本人にとってそれは愛情だが、傍から見れば洗脳だ。そして、外の世界に触れた子供たちは、それまで崇拝してきた父親の矛盾に気付き始める。
子育てと教育の在り方を問う作品ではあるが、例えばこれを国家に、つまり父親を政治指導者、子供たちを国民に置き換えてみてもいいかもしれない。
シガー・ロスのコラボレーター、アレックスの音楽に陶然
人間社会を離れて森の中で独自の基準に沿って暮らす父親と子供たちと、その周囲の草や土に、柔らかな温かい陽光が静かに降り注ぐ。彼らが旅に出た後も、その光が失われることはない。そして、その陽光のような音楽が、映画全体に降り注ぐ。この音楽を生み出したのは、シガー・ロスのヨンシーのパートナーでもあるアレックス・ソマーズ。シガー・ロスの明るい部分をより柔らかに暖かく広げたような音楽が映画を包み込み、陶然とさせてくれる。
ちなみに監督マット・ロスの次回作は、トマス・スウェターリッチの近未来SF拡張現実ノワール「明日と明日」の映画化。本作とは異質な原作がどんな映像になるのか楽しみ。