ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣 (2016):映画短評
ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣 (2016)ライター2人の平均評価: 4
野獣系ダンサーのドラマティックな生き方が圧巻!
最近、海外のバレエコンクールで入賞する日本人ダンサーの多くが王子系らしい。そんなバレエ・ノーブルの逆ともいえるのがセルゲイで、パワフルな踊りはまさに野獣系。伝統を重んじる世界には不似合いなタトゥーだらけの肉体にギョッとする人もいるだろう。19歳でロイヤル・バレエのプリンシパルになった天才ダンサーがあれこれ迷い、歩むべき道を見出すまでを追いながらセルゲイの心模様が明らかになる。友人や家族の証言も重要だが、興味深いのはセルゲイ自身の自己分析だ。カメラの前に立つことが一種のセラピーとなり、自身の内面と向かい合えたのかもしれない。彼がダンサーからアーティストへ進化する過程の記録としても貴重な作品だ。
天才の孤独、ある家族の物語
D・ラシャペルが撮ったホージアのMVの人か……程度の前知識で観始めたら、ぐいぐい惹き込まれてしまった。開演前の楽屋で強壮剤や鎮痛剤を服用し、ブラック・サバスの「アイアンマン」が流れるオープニング。ウクライナでの貧しい幼少期から踊り始めたバレエ界の“バッドボーイ”は、想像を絶する苛酷な心身の闘いを強いられていた。
「夢は全て叶えた。今は普通の人生が欲しい」――。ポルーニンにとっては両親の離婚が決定的なトラウマであり、天命をいかに受け入れるか、の課題と家族の再生への道のりが重なる。神がかったダンス・パフォーマンスの裏側で、愛を希求する“ありふれた青年”の姿には、胸打たれずにいられない。