ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー (2015):映画短評
ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー (2015)ライター3人の平均評価: 5
相当な驚きの映画論・仕事論・人生論
実はこれ、「衝撃作」のたぐい。ハロルド・マイケルソンの絵コンテ目当てに二度観てしまった。とにかく『十戒』の決め手となった画が30代の頃の彼の手によるもので(「漫画原作」レベルですよ!)、しかもセシル・B・デミル監督とは直接会う事もなかったエピソードは強烈。色々考えさせられる。「クレジット」と、最大貢献者は違う。これはあらゆる仕事の現場で見られる光景かもしれない。
もちろんリサーチャーのリリアンの仕事も同様。夫妻がひとつの業界の中で、長年かけて正当に評価されていく過程は世の良心を見る想いがする。『シュレック2』の国王&王妃に彼らの名前が付けられた事は、ささやかだがとても美しい称号だ!
映画に人生を捧げた夫婦の素敵な愛情物語
言うなれば、ハリウッド映画史における陽の当たらない場所にスポットを当てたドキュメンタリー。夫ハロルドはヒッチコックら錚々たる巨匠たちに信頼された絵コンテ画家、妻リリアンは映画の時代考証などに不可欠なライブラリーを守り続けたリサーチャー。業界内では誰もが知る有名人でありながら、一般には殆ど知られることのなかった彼らの、仕事に対する誇りや映画への深い愛情に胸を揺さぶられる。
また、ハリウッド黄金期が終焉した’50年代半ばから、ニューシネマ旋風の吹き荒れた’60年代、アメリカ映画産業が見事な復興を遂げた’70~’80年代と、激動する近代映画史の舞台裏を紐解くという意味でも一見の価値がある作品だ。
映画製作を裏から支えた職人夫婦の愛に感動
多くの逸話を生むハリウッドからまたもや優れたストーリーが発掘された。絵コンテ作家&リサーチャーとして夫婦で映画製作に関わったハロルド&リリアン夫妻の山あり谷あり人生と多くの名画が交錯する構成はまさに60年代以降の映画史でもあり、映画ファンならグッとくるはず。数々の名場面を生んだハロルドの天性の構図力には目を見張った。また夫婦が交わした手紙やカード、会話から業界が愛した夫妻の堅実な姿を浮かび上がらせる監督がハロルドの教え子というのも感涙ポイント。確かな記憶で思い出を語るリリアンの率直さもチャーミングだ! ハリウッド版「やすらぎの郷」で余生を送る彼女が飾るハロルド作のクリムト風妻像も心に残る。