南瓜とマヨネーズ (2017):映画短評
南瓜とマヨネーズ (2017)ライター2人の平均評価: 4.5
画面にただよう自然な空気感が心地いい
売れないミュージシャンの恋人せいいちと再会した元恋人ハギオとの間で揺れる女性ツチダの心模様を切り取ったドラマは、キャストが全員はまり役。なかでも惹きつけられるのが、ヒロイン役の臼田あさ美の演技だ。恋が始まる時期のきらきらした気持ちと、馴れ合いのような関係になってからのダウナー気分をとてもリアルに表現している。誰かを愛することの喜びはもちろん、否応なくついて回る不安感までも的確に演じた彼女に共感する女性は多いだろう。無駄な説明などない脚本も好感度が高いし、自然なセリフ回しなのでどの役者もただ普通に会話をしているように聞こえるのがまたいい。
下北沢を歩いていたらこのふたりを見かけそうな気がする
驚いた。漫画に生命が吹きこまれる、という真の例かも。ツチダがそのまま肉体と魂を持って脱け出てきた実在感を湛える臼田あさ美。太賀はせいちゃんに厚みを加える。原作は98~99年発表。手狭なアパート、下北沢GARAGEなどの空間は、現在というより「変わらないもの」とつなぐ。60年代や70年代、あるいは数年後――いつの時代も都市の片隅でひっそり暮らす恋人たちの姿がここに在ると思わせる。
冨永×魚喃タッグは『亀虫』のイメージイラスト以来だろうが、約15年経ち、大文字の「いい映画」に結実するとは。『パビリオン山椒魚』からのオダジョー帰還も嬉しい。青春が近過去となった大人が、ふと自分史を振り返るような味。