婚約者の友人 (2016):映画短評
婚約者の友人 (2016)ライター4人の平均評価: 4.3
残酷な死や嘘を見つめ直し、生きる気力が湧いてくるまでの心の旅
フランソワ・オゾンが、戦死した婚約者をめぐるメロドラマに挑むかのようにみせ、やがて気高い境地へといざなう。死の影が覆う第1次世界大戦後のドイツとフランス。モノクロ映像の中で悲しみにくれるヒロイン、パウラ・ベーアの透明感が美しい。眼前に現れた亡き婚約者の友人である美青年がミステリーを牽引し、ヒロインの内的変化によって画面が仄かに色づく演出に息を呑む。マネの絵画『自殺』を見つめ、「生きる気力が湧いてくる」と彼女は捉えるようになる。トラウマとなる程の「死」や「嘘」をポジティブに捉え直し、決然と生きる覚悟が宿るまでの心の旅。再びナショナリズムが台頭する現状へのアンチテーゼとしても、深い余韻を残す。
時として人は真実よりも嘘に救われる
第一次世界大戦後のドイツ。戦死した婚約者の墓前に現れた見知らぬフランス人男性。愛する人の親友だと名乗る若者に心を許し、悲しみを癒されるヒロインや家族だったが、しかし思いがけない真相が明かされていく。
善と悪の境界線が曖昧な世の中で、時として人は真実よりも嘘に救われる。そんな「優しき嘘」を巡るミステリーだが、しかし同時に本作は「他者の痛み」に想いを馳せ「己の罪」と向き合う物語でもある。愛する人を戦場へ送り出し、死なせてしまったのは、敵も味方も同じだ。
モノクロ映像で同時代的リアリズムを追求しつつ、随所にカラーを挿入することで詩的な抒情性を際立たせるフランソワ・オゾン監督の演出にも唸る。
まるで三島由紀夫の小説のようだ
戦争で亡くなった婚約者の墓を、訪ねて来た友人。ヒロイン(とその両親)が、婚約者との思い出を共有するうち、二人が親しくなっていく物語に、フランソワ・オゾンはある秘密を仕掛ける。後半、重要な秘密は表面的に明かされるものの、監督が密かに込めたメッセージは明らかに男同士の愛情だろう。
そう考えると、モノクロ画面がカラーになるシーンの意味も自ずとわかってくる。友人が、亡き婚約者の魂と寄り添っている時間に、画面は鮮やかな色を帯びるのだ。もちろんこれはひとつの解釈だが、一人の女性を介して二人の男が間接的に愛を確かめ合う展開は、三島由紀夫の「禁色」を思い起こさせる。文学的味合いも深い、ゾクゾクするほどの傑作。
話者の想いに沿って、モノクロ映像がほのかに色彩を帯びる
基本的にモノクロ映像なのだが、その時の語り手の気持ちが静かに暖かくなっていくと、映像がほのかに色彩を帯びていく。語り手が過去の楽しかった思い出を語るとき、映像が現実とは異なる、夢のように淡い色調になる。その微細な色彩の変化と、登場人物たちの心理の細やかな動きが重なり合い、さざなみのように押し寄せては、引いて行く。
その手法が、1919年のドイツの小さな町が舞台の古風なメロドラマふうの物語によく似合う。"嘘"についての物語でもあり、それが映画ならではの映像手法で語られて、映画が美しい嘘であることを再認識させてくれる。