女神の見えざる手 (2016):映画短評
女神の見えざる手 (2016)ライター4人の平均評価: 4.3
女性ロビイストの非情な生態を通して政治の本質を炙り出す
智略を尽くす女性ロビイストの非情な生態に光を当てて、政治ドラマと諜報サスペンスを融合させたスピーディかつ痛快なドラマだ。「銃規制法案」をめぐる権謀術数は、二転三転して予測不能な着地点へ向かう。議論の応酬が小気味よい。元弁護士の脚本家ジョナサン・ペレラのセリフの切れ味には、名匠アーロン・ソーキンも戦々恐々だろう。信念より打算が優先される世界で、勝つために感情を圧殺したかのようなジェシカ・チャステインの造形が魅力的。垣間見せる脆い側面が、政治の闇に悲鳴を上げているようにも映る。胸のすく展開も訪れるが、この世界の勝者は果たして英雄なのかと考えさせ、一筋縄ではいかない鋭利な社会派映画に仕上がった。
「私自身のおごり」を突破するものとは
ロビー活動とはパワーゲームという戦略と操作の場に過ぎないのだろうか? 「政治」の最も臭いフタをパカッと開ける、この着眼がまず秀逸だ。Kストリートの女版ゴルゴ13を快演(怪演)するJ・チャステインのハードボイルドであり、ピカレスクロマンの応用形であり、同時に正義や信念を問い直す良心作だという清濁併せ持ったバランスに惹かれる。
さらにお気に入りなのは邦題。これは「神」になろうとしたイカロス的ヒロインの劇とも言え、しかし実はその破れ目(誤算)からの巻き返しで本当の「見えざる手」(アダム・スミス『国富論』)が働く。ミス・スローンは捨て身の献身に旋回することで、初めて「女神」の崇高さに近づくのだ。
アメリカの銃規制問題の複雑な実情に触れる
これだけ銃乱射事件が起こっても、アメリカではなぜ銃規制が進まないのか。その複雑な実情を、ロビイストの立場から語るという視点は興味深い。そもそも、ロビイストという人々に焦点が当たることが、これまでほとんどなかった。そのパワフルな女性を演じるのは、ジェシカ・チャステイン。仕事中毒で、勝つためなら倫理的にどうかと思われることもいとわないという彼女をチャステインは熱演しているのだが、「ゼロ・ダーク・サーティ」の主人公のように脆い部分を見せることがないからか、本当の意味で共感しづらい。速いテンポで展開し、スリラーとしては楽しめるが、政治の実態を掘り下げるという部分ではややものたりない感じだ。
トランプ政権を正してくれるのはジェシカ?
テンポはいいし、キャラクターは魅力的だし、小気味いいひねりも用意されていて、最後まで目が離せない政治サスペンスだ。主役エリザベスは仕事のためなら汚い手を使うのも辞さない好戦的な辣腕ロビイストで、性的欲求も買春で済ませる合理主義のワーカホリックでもある。好感度が高いとは言えないキャラをジェシカ・チャステインがストイックに演じ、絶対に妥協しないヒロインの強さが魅力に見えてくる。これがデビューとなる脚本家J・ペレラの筆致は巧みで、ロビイストの活動ぶりや銃規制をめぐる政治家たちの思惑や利害関係なども赤裸々に描かれていて実に興味深い。脱線気味なトランプ政権に必要なのは辣腕ロビイストなのかも。