サニー/32 (2018):映画短評
サニー/32 (2018)ライター3人の平均評価: 4
'70年代的アングラ・スピリットに溢れる怪作
佐世保で起きたいわゆる「NEVADA事件」をモチーフに、「史上最も可愛い殺人者」としてネットで神格化された元加害者の女性が熱狂的ファンに誘拐監禁され、やがて集まった信者たちによって教祖へと祭り上げられていく。
師匠・若松孝二を彷彿とさせるアナーキズムを炸裂された白石和彌監督。信者同士による殺し合いなんか、まるで全共闘世代の内ゲバか総括かといったような印象だ。それでいて、カルトに傾きやすい閉鎖的なネット裏社会の闇が、殺伐とした現代日本の深い病巣を浮き彫りにする。東映バイオレンス的な『日本で一番悪い奴ら』とは一味違った、’70年代的アングラ・スピリットに溢れる怪作と言えるかもしれない。
北原里英と役柄がシンクロしていく怪作。
「これで終わりですか?」と、北原里英演じるヒロインはアブない世界への憧れから、さんざんな目に遭う。これは実際に『凶悪』の世界観に憧れてた北原が、『凶悪』のスタッフ&キャスト最新作のヒロインを演じる、という本作の製作過程とシンクロする。撮影自体が彼女の女優魂が試される試練であり、その一部始終を観客は見せつけられる。そのスリリングな展開は、まさに“DOCUMENTARY of きたりえ”。前作『彼女がその名を知らない鳥たち』で炸裂した女性映画としてのカタルシスは本作に受け継がれ、本作でのお遊び感溢れる『仁義なき戦い』感は、次作『孤狼の血』で本物と化す。まさに、現在進行形の白石和彌監督作だろう。
秋元=若松イズムの納得のハイブリッド!
秋元康発信の企画でNGT48卒業を控えた北原里英主演――ながら、何と白石和彌監督の中で「若松プロ」イズムが最も強く出た一本となった。白い荒野(新潟ロケが良い!)で俳優陣(実力者揃い)がやんちゃな狂騒を繰り広げる遊戯性は『処女ゲバゲバ』等を連想したり。とはいえ同時代性の中で現代論としての表現を差し出す、という点で秋元=若松は通じているわけで、実は適合性も必然性も極めて高い異種交配だと言える。
未成年犯罪の“その後”と、メディアがもたらす後遺症的な波及を扱ったものとしては瀬々敬久の『友罪』(5月公開)と対照的な形で共振しているのが興味深い。高橋泉の脚本作品としては完全に『14歳』の発展形だろう。