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ウインド・リバー (2017):映画短評

ウインド・リバー (2017)

2018年7月27日公開 111分

ウインド・リバー
(C) 2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ライター7人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.9

清水 節

辺境における苛酷な現実を、白銀のアクション映画に昇華させる業

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 女性が裸足で極寒の雪原に走り出て必死に逃げようとするが、倒れ命尽きる――。辺境からアメリカの貧困・差別・暴力といった苛酷な現実を見つめ続ける脚本家テイラ―・シェリダンの監督作は、ワイオミング州の先住民保留地における「癌よりも高い殺人死亡率」を題材に、過去を抱えるハンターと若きFBI捜査員の視点で導入し、アクション映画へと昇華させる。犯人探しミステリーが途絶し、回想で過去が明かされる形式が終盤を強化している。許されざる復讐。だが、怒りと悲しみのやり場の矛先がそこにしかない状況に、より絶望が深まる。クライマックスの“白い地獄”は、アンドレ・カイヤット監督作『眼には眼を』の灼熱の砂漠に匹敵する。

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なかざわひでゆき

真冬の過疎地で起きた陰惨な事件に現代アメリカの闇が浮かぶ

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 周囲を果てしない雪原と深い森に囲まれ、まるで文明社会から断絶されたような真冬のネイティブ・アメリカン居留区で陰惨な殺人事件が発生。捜査が進むにつれ、小さな集落が直面する人種差別や女性差別、地域格差に経済格差などの社会問題が浮かび上がっていく。
 現代アメリカの闇に鋭く斬り込むテイラー・シェリダン監督の、『ボーダーライン』と『最後の追跡』続く“フロンティア三部作”の最終章。どことなくコーエン兄弟の『ファーゴ』と『ノーカントリー』を合わせた雰囲気がある。地味ながらも画力の強さと濃密なストーリーでグイグイと惹きつけ、ラストは急転直下のショッキングな展開で観客に強烈なパンチを食らわす。実に見事だ。

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相馬 学

極寒の町の闇を見つめたハードボイルド・サバイバル劇

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 寒すぎて人が死んでしまうようなところ。そんな地に先住民を囲い込んだ米国の闇を見据えつつサスペンスを展開させる。

 絶望しかない町に追いやられたネイティブアメリカンと、負け犬的な白人たちのにらみ合いの構図は雪景色以上に寒々しい。本作で監督デビューを果たしたT・シェリダンは脚本作品『ポーターライン』に通じる辺境の殺伐とした空気を、キャラクターをとおして見事に描き出している。

とはいえ重いだけの映画ではなく、J・レナーふんする主人公のハードボイルド・ヒーロー的なたたずまいは頼もしい。ヒロイン、E・オルセンとともに過酷な事件を乗り切るサバイバーになりきった。本作の希望は、まさにそこにある。

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平沢 薫

白く広がる雪原で、冷気が人間を死に至らせる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 殺人事件の謎解きものでありつつ、先住民居住区の社会問題を描き、それでいて男性捜査官のハンターとしての気概の物語でもあり、女性捜査官の意地の物語でもある。この4つを同時に描いてバランスがよい。
 その背後に広がるのは、冷えた大気が人間を死に至らせる、極寒の白い大雪原。撮影は「ハッシュパピー~バスタブ島の少女~」のベン・リチャードソン。監督・脚本は、脚本家として「ボーダーライン」「最後の追跡」を手掛けたテイラー・シェリダン。本作も、監督が脚本を手がけた前2作同様、舞台はアメリカの辺縁部。過酷な自然が大きく広がり、人間が小さく見える土地で、人間たちが行ってしまう行為が描かれている。

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斉藤 博昭

期せずして、この猛暑に最適な作品となった

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

外部の者を拒絶する閉鎖的社会に、一見、未熟な捜査官が、したり顔で現れる。この設定に新しさはないものの、両者の橋渡し役をジェレミー・レナーが演じたことで物語の説得力が倍増する。やはりこの人、サポート役をやらせたら天下一品。ホークアイのごとく、仲間の窮地で爆発させる瞬発力と、射程へのピンポイント的中力でも惚れぼれさせる。

この作品、恐ろしいのは極寒である。単なる凍傷や凍死だけではなく、全力で走ると肺が凍って破裂するなど、零下30度の実情に文字どおり震撼。そして監督が集中するのは、都会に出ていけない住民たちの諦念で、彼らの切実な吐露が胸に迫り、緊迫のアクション場面にもどこか哀愁が漂うのであった。

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猿渡 由紀

沈黙と雪の中で展開する、一味もふた味も違うスリラー

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

雪の中で見つかった若い女性の死体。彼女はどうしてこんなことになったのか。だが、この映画はよくある犯人探しものとは一味もふた味も違う。その大きな要因は、舞台がインディアン居留地であることだ。外の人にはなかなかわからない、その小さな特有のコミュニティの文化は、物語に深く織り込まれ、彼女の死をより切ないものにする。テイラー・シェリダン監督は、2016年の傑作映画「最後の追跡」を書いた人。アメリカならではの広大な風景を背景に、普通の人々の心をしっかり描きつつ、スリル満点に展開するストーリーは、彼がお得意とするところのようだ。今後にも大きく期待したい。

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くれい響

『ボーダーライン』:ワイオミング篇

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

『ボーダーライン』続編も楽しみな脚本家、テイラー・シェリダンの監督デビュー作。舞台がメキシコ国境から雪深いワイオミング州に変わっても、FBI捜査官のヒロインが目の当たりにする闇や容赦ない暴力描写、ミステリー仕立てのクライムサスペンスという枠は変わらず。バディを組むのが『アベンジャーズ』のワンダとホークアイということを微塵も感じさせない緊迫感ある演出が続き、ネイティブアメリカンの保有地における諸問題など、強いメッセージ性も感じさせるが、しっかりエンタメ色も強い。ニック・ケイヴの音楽もスパイスになっており、カンヌ「ある視点部門」監督賞受賞作として観ると、若干違和感を覚えるかもしれない。

この短評にはネタバレを含んでいます
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