ブリグズビー・ベア (2017):映画短評
ブリグズビー・ベア (2017)ライター4人の平均評価: 4.3
空想に育まれ物語に救われた全ての人へ愛と敬意を込めて贈る傑作
偽の親に育てられ、ファンタジー番組の虜になったまま成長し、やがて現実を知る。人は思春期までに強く影響を受けたもので人生を決定づけられる。フィクションを強烈に浴び空想の翼を広げれば、とかくリアルは生きづらい。では現実にまみれればいいのか。これは、大好きな世界に入り込み、物語の続きを自らの手で作ることによって魂が救済される物語だ。心の拠り所とするフレーズ“May our minds be stronger tomorrow”は、もちろんあの映画へのオマージュ。それを発した偽の父はマーク・ハミル。多くの人々の人生を変え、自身の人生も変わり果てたフィクションの巨人の名演が、真実を強化している。
全体を覆う「やさしさ」に素直にほっこり
動機や目的はどうあれ、我が子が喜ぶものを必死になって作る。その親心が、まず切ない。本来なら犯罪者である両親を、そのように共感するキャラとして描くことで、この映画が徹底して「やさしさ」を追求しているとわかり、観ていて心地よい。
テレタビーズを連想させるブリグズリーの番組に、やがて物語のメインとなる、主人公らの映画製作。そのすべてに貫かれる、完璧ではないアナログ的な愛おしさ。それが作品全体の魅力に直結するうえ、現場での作り手たちの嬉々とした表情まで想像してしまう。大げさに言えば、映画作りの「原点」を感じさせる逸品。シンプルに感動するラストも潔い。大物俳優たちのオーラの少なさも作品になじんでいる。
歪んでいても、大丈夫
歪んでいても大丈夫ーーーなんてことは実生活ではほとんどなく、なにかと面倒なことがあるのが現実だが、だからこそ、こういう「でも大丈夫」な映画が作られて目出度い。赤ん坊の時から世間と隔絶され、両親と暮らす家の中で、父親が撮影した着ぐるみのクマが主人公のオリジナル特撮シリーズだけ見て育つという、ある意味かなり贅沢な育ち方をした25歳男子が、自分の状況の真相を知った時、世界と折り合うためにどんな決意をするのか。その時、主人公の妹の男友だちに「スター・トレック」のTシャツを着たVFXマンを目指すSF映画オタクがいて、主人公と意気投合するという展開も嬉しい。マーク・ハミルが魅力的な役柄を演じている。
こっちのロード&ミラープロデュース作は本領発揮!
『ルーム』の後半や『FRANK -フランク-』あたりを意識した、こじらせ男子映画と思いきや、これが前記の2作を軽く超える感動作だから、あなどれない。四半世紀の監禁や洗脳から解放され、戸惑う主人公の勇気の物語と映画&VHS愛に、モノづくりをする人間は励まされ、涙するはず! マーク・ハミルの起用もよくある出オチでなく、しっかり意味があるのからスゴい。時折、作り手のあざとさも見え隠れするが、ロード&ミラープロデュース作として、日本で『ハン・ソロ』と同時公開されるのは、とにかく興味深い。ただ、登場人物みんないい奴&テーマが若干カブる『ワンダー 君は太陽』とも同時公開なのは、ちょっともったいない!