スターリンの葬送狂騒曲 (2017):映画短評
スターリンの葬送狂騒曲 (2017)ライター4人の平均評価: 4
恐怖政治に怯える組織人なら震えつつも笑い転げる権力闘争の実態
フランスのグラフィックノベルをイギリスの政治風刺劇の名手が映画化した、旧ソ連の権力闘争。独裁者スターリンの死の直前から始まるが、側近たちの狼狽や権力欲を露わにする姿は、ほぼ実話なのに滑稽極まりない。昨今の日本では、ピラミッド構造のトップの横暴が露見し、テレビやSNSに晒されて人々が溜飲を下ろす行為が繰り返されているが、その本質はここに描かれていることと何も変わらない。恐怖に基づく権力の暴走、全体主義の行き着く先は、いつの時代も歪にして愚かしいが、渦中にいる人間が客観視することは難しい。未だドンが君臨するあらゆる業界の組織人は、本作を震えつつも笑い飛ばし、改革のヒントを見出すかもしれない。
ちょいと敷居が高い“腹黒王決定戦”
フランスのグラフィックノベルを原作に、いかにもドラマ「官僚天国!~今日もツジツマ合わせマス~」のアーマンド・イアヌッチ監督らしい“どこまでが事実で、どこからがフィクション?”なポリティカルコメディ。オルガ・キュリレンコが紅一点で配されるあたりも「モンティパイソン」に近いが、これがちょいと敷居が高い。邦題にみられるスラップスティックさは感じられず、爆笑というよりブラックな展開がスパイスに。スティーヴ・ブシェミら、本人と似てない芸達者な役者の巧さは堪能できるものの、ある程度、歴史とキャラを把握してないと退屈に見えてしまう恐れも。北朝鮮に重ね合わせて観るのもベターかも?
独裁政治の構造と本質を浮き彫りにする痛烈なブラックコメディ
暴君スターリン死去に伴うソビエト共産党幹部たちによる、あまりにも醜く浅ましいがゆえに笑うしかない後継者争いの顛末を通じ、独裁政治の構造と本質を浮き彫りにする痛烈なブラックコメディである。
権力を私物化する勘違いしたリーダー、その虎の威を借る側近たち、ご意向を忖度する役人や政治家。庶民の多くは無知と恐怖ゆえ体制に追従し、声をあげた者は容赦なく粛清される。どこの国や組織でも起き得る構図であることは言うまでもあるまい。
それは日本とて同じ。むしろ、今この国のあちこちで起きている緒問題と、本質的な部分で奇妙に符合する点が少なくないことに驚かされ、戦慄し、笑うに笑えない気持ちにもなることだろう。
「すごいものを見た」と思わせられる、強烈な風刺喜劇
政界を舞台にした風刺コメディは、イヌアッチ監督がお得意とするところ。だが、エミー常連の「Veep」などと違い、これは史実にもとづいている。その意味で、これまで以上に大胆だ。権力争いに心を奪われ、国民、あるいは身近な仲間にまで平然と残虐な仕打ちをする官僚たちの行動は愚かの極みで、たしかに見方によってはコメディになりえる。その素材を、彼ならではのテンポの速い会話と、それらのセリフを絶妙なタイミングで言ってみせる芸達者な役者の力で料理してみせたのが、このドタバタ喜劇。思いきり笑い、唖然とし、最後は「すごいものを見た」と思わせられる、強烈な映画だ。