追想 (2018):映画短評
追想 (2018)ライター3人の平均評価: 3.3
セックスを語ることがタブーだった時代の悲恋ドラマ
セックスの知識も経験もないまま結婚してしまった若いカップルが、それゆえに愛情だけでは乗り越えられない大きな壁にぶつかる。舞台は厳格で保守的なイギリス社会にリベラルな空気が漂い始めた1962年。そんな過渡期の時代に主人公たちの揺れ動く心情を重ね合わせつつ、社会の押し付ける「規範」に翻弄される男女の悲恋を描く。
恋愛や結婚にまつわる古い慣習が薄れゆく一方、肝心のセックスを語ることが依然としてタブーだった社会背景を理解しないと、分かりづらい点はあるかもしれない。とはいえ、性に対する男女の意識の違いや先入観が、思わぬ溝を生んでしまうことは今だってよくある話。やはりセックスを軽んじてはいけない。
愛の崩壊の裏側にジワジワと迫る技巧派の佳作
若いカップルの結婚から破局までのわずか6時間の物語で、合間に回想が挿入される。1960年代という時代背景や、英国の空気がそこに反映され、地味ながら滋味深い。
貧と富、情熱と慎み、ロックンロールとクラシック……男女のそのような対照的な立ち位置が、”初夜”の絶望に向かって収束する物語は、派手さこそないがジワジワと迫るものがある。ち密な描写の積み重ねの勝利。
ヒロイン、S・ローナンはもちろん相手役のB・ハウルもいい。口元の笑みが若きアルバート・フィニーをほうふつさせる60年代的反逆顔。狙ったキャスティングであることは、“怒れる若者”映画の代表作『蜜の味』が劇中で使われることからも明らかだ。
若い愛の純粋さ、愚かさ、美しさ、せつなさ
時代は1962年。映画は、結婚式の直後、海沿いのホテルにチェックインし、ロマンチックな時間を過ごす主人公ふたりの様子を、フラッシュバックを織り込みつつ描いていく。前半、ややテンポがスローなのは否めないのだが、最後になって、それら思い出のシーンは必要だったのだと納得する。ここで語られるのは、若い愛。それも、本当の愛だ。それがあまりに愚かで、せつなく、しかし美しくて、涙が流れるのである。シアーシャ・ローナンがイアン・マキューアン小説の映画化作品に出るのは、「つぐない」以来、10年ぶり。あの少女がこんな立派な大人の役者になったのだという事実にも、感動を覚えずにはいられない。