空母いぶき (2019):映画短評
空母いぶき (2019)ライター3人の平均評価: 3.7
『シンゴジラ』と観比べるのもアリ
“憲法9条を守りながら戦う”という難題に挑む自衛隊を描く脚本には、「平成ガメラ」シリーズの伊藤和典も参加しているだけに、日本政府のシュミレーション映画としての見応えはアリ。そのため、『シンゴジラ』との比較もできなくもないが、若松節朗監督の演出は20年前の『ホワイトアウト』と変わらず。これだけ大作感がありながら、どこかもっさり。セリフと音楽で畳みかけるアニメ的演出が正解とは言い切れないが、本作でも艦長・副長以外のキャラがそこまで魅力的に見えないのは事実だ。ただ、佐藤浩市演じる総理が登場すれば、なんだかんだ画が引き締まるし、いろんな意味でシニア層にはいい塩梅のエンタメかもしれない。
とりあえず色眼鏡を外して見て欲しい佳作
公開前の勝手な憶測で批判を招いたことは残念だが、しかしそれだけ今の日本においてセンシティブな題材を扱った映画だとも言えよう。日本がアジア某国から侵略を受けるという不測の事態が発生し、空母いぶきを旗艦とする自衛隊の護衛隊群が敵と対峙する。なにかと政治的なテーマがタブー視されがちな邦画界。本作も少なからず食い足りない部分はあるものの、しかし改めて平和憲法の価値と意義を問うストーリーはかなり頑張っている。原作とは違う敵国の設定も、現在の国際情勢を鑑みるとより現実的。また、強さと弱さを兼ね備えた人間味溢れる高潔な総理大臣を演じる佐藤浩市は見事で、現実のリーダーもこうあって欲しいと思わせられる。
強烈なメッセージは難しい現状で、ギリギリの選択
日本映画でそれなりに公開規模の大きい作品で、政治的メッセージを強く打ち出すことが難しいなか、日本近海での侵略行為に対して自衛隊がどう対処するかを描く今作は、登場人物それぞれに専守防衛、自発的な攻撃の是非をジワリとまとわせ、観る者の心を不覚にも動揺させる。ギリギリ許容範囲で、炎上を恐れ、閉塞する現在の日本社会を代弁しているかのようだ。
多少、違和感を呼ぶ市民たちのエピソードもあるのだが、最もシラケさせる危険をはらんだ、本田翼と小倉久寛が演じる記者たちの立ち位置もうまく踏みとどまり、全体にあふれる作り手の「気概」は強く感じられる。そしてアクションエンタメとしても素直に興奮させるのがポイント。