マンディ 地獄のロード・ウォリアー (2017):映画短評
マンディ 地獄のロード・ウォリアー (2017)ライター5人の平均評価: 4.4
さながらグラインドハウス×サイケデリック・アート!
もしかすると今年一番の怪作かもしれない。ストーリー自体は至極単純。マンソン・ファミリーみたいなカルト教団に最愛の妻を殺されたニコラス・ケイジが、クロスボーやチェーンソーを手にして血みどろの復讐を遂げるわけだが、しかしこのドラッグでラリッたようなトリップ感覚満載の映像と異様なテンションは、まさに狂気の世界そのもの。邪悪でありながらも美しい。さながらグラインドハウス×サイケデリック・アートといった感じで、デヴィッド・リンチやニコラス・ウィンディング・レフンとはまた一味違ったタイプのカルト臭が漂う。監督はパノス・コスマトス。この異形の才能が、あの娯楽職人ジョルジ・パン・コスマトスの息子とは!
クレージーなセンスに彩られた異色バイオレンス
妻を殺された男の復讐を描いた壮絶バイオレンスかと思いきや、”壮絶“の方向が少々違い、驚かされる。
キング・クリムゾンの曲に導かれる序盤はゆったり進み、カルト教団やモンスター暴走族が出てくる辺りからドラマは奇想天外なムードを帯びてくる。チェーンソー対決などのいかにもなジャンル映画的描写はあるが、神話的なムードは映像美と相まって引っかかりを残す。
監督は『ランボー/怒りの脱出』のジョルジ・P・コスマトス監督を父に持つ俊英。ヘヴィメタルとコミックとアニメと哲学を混ぜて映像美に昇華する、クレージーなセンス。この俊英、いつかとてつもないマスターピースを生み出すかもしれない。
ロックファン驚愕のドラッグムービー
冒頭からキング・クリムゾンの「スターレス」を流す時点で、あなどれないが、本作も楽曲同様に2部構成。その後も、アクション映画界の雄だった父、ジョージ・P・コスマトスとは違うアプローチで攻めてくる。当初は教祖役をオファーされたニコラス・ケイジのTシャツねた、カルト教祖の描写など、プログレファン、メタルヘッドなど、ロックファン驚愕のドラッグムービーであることは間違いない。ただ、これで121分はあまりに冒険し過ぎで、劇中流れる『グレムリン』風なクリーチャー、チェダー・ゴブリンのCMや『魔獣星人ナイトビースト』的なエンタメノリを期待すると、ガチで肩透かし&睡魔との戦いになるだろう。
「ニコケイ映画」という言葉に反応する人への最高なラブレター
自覚的なのか、いまだ無自覚なのか。とにかくニコラス・ケイジにとって「とんでもない状況に陥り」→「過剰にブチきれ」→「作品を別次元に転換」というパターンは名人芸の域で、一部の熱狂的ファンを生み出している。その意味で、今作は前半こそ出番が少なくて不安がよぎるが、中盤から完全なるニコケイ映画になっており、復讐の鬼と化し、誰も止められない彼の姿には唯一無二のオーラが宿る。
そしてニコケイは別にしても、過剰にゴスな色調でレトロな味わいもある映像や、人間だかどうかもわからない狂気的な敵の様相、カルト集団など心をざわめかせる要素に、故ヨハン・ヨハンソンのスコアが融合し、妖しく奇怪な世界観を創出している。
ニコケイのTシャツを破いてはいけない!?
アニメやサイケデリックな壁紙風背景が挿入され、ニコラス・W・レフンやD・リンチ、メタルロックの影響も感じられるアート風なゴア・アクション! しかも登場人物の人物造形をちょっとしたシーンで観客に伝える、繊細なニュアンス演出にP・コスマトス監督の才気を感じた。多くのアートを取り入れ、自分の世界を作っている。多数の演技派役者が出演したのもきっとそのせい。主演のニコケイは、往年に戻ったかのような怪演を披露する。血まみれでカルト集団と戦う後半は特に彼の独壇場。ウォッカを煽り、コカインをキメ、大暴れ。「お気に入りのTシャツを破りやがって」と吠えるシーンに、ニコケイの完全復活も近いとニヤリ。