長いお別れ (2019):映画短評
長いお別れ (2019)ライター3人の平均評価: 3.3
いつかは始まる親の介護に備える意味でも必見
チャンドラーの小説と同じタイトルだが、言葉の意味が深く心に沁みた。老いた夫婦と悩みを抱えた娘たちが認知症と向き合う姿を数年に渡って追う展開に説得力アリ。認知症問題だけでなく、愛を見つけられずに落ち込んだり、家族との距離に悩んだりする娘側の事情にも焦点を当てたのが効いている。しかし注目はやはり、老父役の山崎努だ。漢字能力を褒められてニンマリしたかと思えば、万引きで家族を困らせたり。認知症特有の行動がリアルに伝わってくる。悪役や強面なイメージが強かった山崎が愛すべきご老人を体当たりで快演し、その役者魂に感動する。松原智恵子が演じる老妻も愛らしさのなかに芯があって、さらにお茶目なのもいい。
理想のお母さんを体現する松原智恵子が愛おしい
痴呆症を患い日々記憶を失っていく父親と、その家族の7年間に渡る悲喜こもごもを綴る。前作『湯を沸かすほどの熱い愛』の涙腺攻撃(?)から一転、中野監督はどこにでもある家族の愛情と苦悩、喜びと悲しみを、微笑ましいユーモアを交えつつ暖かな目線で描く。意外だったのは、女性ドラマとしても秀逸なこと。主婦として家庭生活に問題を抱えた長女、仕事も恋愛も挫折続きで行き詰った次女、バラバラになりかねない家族を一つにまとめてきた母親。それぞれが、いろんな意味で日本女性のリアルを体現して説得力がある。中でも母親役・松原智恵子の愛おしさときたら!アメリカを舞台にしたシーンが全然アメリカに見えないことだけが惜しまれる。
三姉妹から三人娘へ
“認知症”というテーマを扱いながら、問題作『湯を沸かすほどの熱い愛』ほど、あざとさや狙いも感じさせないところに、次のステップに昇った感のある中野量太監督作。とにかく、原作の三姉妹から姉妹に脚色したことの巧さが光る。日本と海外で暮らす2人の性格や関係性が明確に出たうえ、チャーミングな母親を含む“三人娘”が日に日に記憶を失っていく父親に向き合う構図がいい。そこで、母親を演じる『笑顔の向こうに』『君がまた走り出すとき』と、今年絶好調な松原智恵子の受けの芝居が炸裂する。片や、夫を演じる山崎努も、友人の葬儀シーンでの不破万作との絡みなど、笑って泣かせる芝居がスゴい。