タロウのバカ (2019):映画短評
タロウのバカ (2019)ライター2人の平均評価: 4
胸に染みる菅田将暉のモノローグ
『ゲルマニウムの夜』の大森立嗣監督が帰ってきた! もともとデビュー作として用意していた脚本だけに、かなり荒削りではあるが、観客がその余白を埋める作品でもあり、常にヒリヒリした空気感と少年たちの痛みは、『KIDS』『ガンモ』、そして『メイド・イン・ホンコン』に近いものがある。とはいえ、このヘヴィなテーマで119分の尺を引っ張ることができたのは、大森監督とは『セトウツミ』で組んでいた菅田将暉の力によるところが大きいだろう。今、この企画に乗った心意気が素晴らしいうえ、『ディストラクション・ベイビーズ』以上に危うい芝居を魅せる。そして、なにより印象的な語り口のモノローグが胸に染みる。
こんな世界からも“神話”は立ち上がる
リミッターを外す、どころかフルパワーでぶち壊した大森立嗣の渾身作。デビュー前の脚本が基ながら「いま撮る必然」に満ちた点では大林宣彦『花筐』と並び、当代きっての人気者達が参戦した意義では『ディストラクション・ベイビーズ』等を引き継ぐ闘争となる。
現在日本社会の腐敗に敏感な作家は「バカ」という主題を同時浮上させている。『イワンのバカ』的聖性を纏わせつつ、インサイドでの改革の試みが石井裕也『町田くんの世界』で、アウトサイドからの一揆が片山慎三『岬の兄妹』なら、ワイルドサイドへ飛び出せと促すのが『タロウのバカ』だ。そこには棄てられた子供達が聖域を作り、野生美を湛えたタロウ=YOSHIが待っている。