ドント・ウォーリー (2018):映画短評
ドント・ウォーリー (2018)ライター4人の平均評価: 3.5
随所に見える、単なる感動モノで終わらせない製作陣の気概
日本では障害を題材にすると当事者も介護者も聖人のように描かれがち。
『こんな夜更けにバナナかよ』のような意欲作も出てきたが、ハリウッドのやんちゃコンビ、ホアキン &ガス・ヴァンの振り切れっぷりはさすが。
主人公も破天荒なら、サポートする側も容赦無し。
傍若無人な振る舞いをピシャリたしなめれば、車椅子生活になった後の性生活もレクチャー。
実際、日本の現場でも行われているのかもしれないが、作品としてココを描くか否かで、障害を感動の道具にするのか、人生にフォーカスするのか印象が大きく異なる。
結果として主人公は風刺漫画家の才能を開花させる。
その彼の自立支援をサポートした脇役たちの存在も見逃せない。
イタイところを突く笑いが全編を貫く
実話でもあり、もし観客を泣かせようとする映画にしようと思えばいくらでもできるところを、ガス・ヴァン・サント監督はそうはしない。映画は、主人公のモデルとなった実在の風刺漫画家の精神の強靱さを描く。
その精神は、映画に登場する彼の風刺漫画に貫かれている。彼が描くのは、"常識に捕らわれている人々のイタイところを突く"というキツい知的な笑い。そのギャグ感覚は、彼自身にも向けられる。映画は、主人公が過酷な経験を経ても、そうした笑いを描く精神の鋭さを失わなかったことを描くのだ。ルーニー・マーラ演じる女性が、まるでこの世のものとは思えないような愛らしさで、"救い"の擬人化に見えてくる。
見どころは導師ジョナ・ヒル
もはや兄・リヴァーのイメージなど微塵もないホアキン・フェニックスだが、20年ぶりとなるガス・ヴァン・サント監督とのタッグとあれば、自然と期待は高まるもの。破天荒ながら、どこか魅力的な患者と周囲の人々との交流が描かれており、『こんな夜更けにバナナかよ』と比べがちだが、こちらは久里洋二にも通じるコミカルな風刺漫画家の物語にしては笑い要素が薄めで、ホアキン(熱演)色強め。断酒会やグループセラピーの描写は興味深いが、儲け役は主人公に手を差し伸べる導師役のジョナ・ヒルだったりする。映画化を熱望していたロビン・ウィリアムズ主演で観たかったと思える仕上がりだ。
過剰になる一歩手前で抑え、穏やかな温もりをキープ
ガス・ヴァン・サント監督の映画は、過剰なシチュエーションでも、わすかにポイントを外し、過剰さをはぐらかす演出があったりするが、それが今回は主人公の描き方にも反映された感がある。風刺漫画家でアルコールに溺れ、事故で車椅子生活を送る。しかも演じるのがホアキン・フェニックスとあって、いくらでも過激になる予感をはらむが、その仕上がりは爽快で穏やか。車椅子の暴走→スケボー少年との交流の流れがその最たる例か。ホアキンも『her/世界でひとつの彼女』に近い、振り切れる手前の演技アプローチで、観ていて安心感がある。時折挟まれる主人公の漫画も、その“ヘタウマ”なタッチが、これまた作品全体を微笑ましく変換。