きみと、波にのれたら (2019):映画短評
きみと、波にのれたら (2019)ライター4人の平均評価: 4.5
湯浅政明的極上の恋愛映画にして号泣作。
GENERATIONSのテーマ曲が好みじゃなくても問題なし。港とひな子の二人がイチャつきながらデュエットするこの歌をバックに、一挙に距離を縮めていくシークェンスのなんと親密で微笑ましいこと!そんな彼が海の事故で落命し、憔悴したひな子が部屋の隅でうじうじ足指を蠢かせる長いショットの切実さ。そんな港が水の中に姿を現すのもこの歌の力によってだ。大きなスナメリ型の浮き輪に水を張って、手を繋いで街を歩くひな子のマッドラヴな表現にもう号泣。大瀑布的クライマックスまでアレンジを変えつつ、この一曲で物語を牽引していく音楽劇的手法が効いていて、実は前作『夜明け告げるルーのうた』に続く“歌と水の映画”なのである。
夏のエッセンスとアニミズム
湯浅政明ミーツ永井博あるいは鈴木英人!? 夏のきらめきを中心に各々の季節が描かれ、FM STATIONのカセットレーベルでGENERATIONS from EXILE TRIBEのテーマ曲を聴いている感覚に。ラブストーリーに内包するのは陰り、生と死、幻想や狂気、限りない優しさ。完璧なポップアルバムのような96分。
ここでは「波」が人生や世界のヴァイブレーションの喩として扱われ、その意味性がアニメーションの自由闊達な動きの表現と有機的に結びつく。狭義&広義の優れたサーフムービー。『あの夏、いちばん静かな海。』『ポンヌフの恋人』『バックドラフト』など色々引き合いに出せるが、やはり極めて独創的だ。
湯浅監督流“歌謡映画”
ヒロインがサーファーで、主題歌がGENE(RATIONS)とは、かなり挑戦的な湯浅政明監督作。前半で展開されるリア充感満載のラブストーリーは賛否あるかもしれないが、ここまで潔くやってくれると逆に気持ちいい。しかも、『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』の「買い物ブギ」から27年、「ピンポン THE ANIMATION」の浜田省吾を経た“歌謡映画”として観ると、かなり響いてくる。湯浅作品独特のスケール感や狂気を求めるとモノ足りないが、人生の波にのれないヒロインの心理をキッチリ描いた吉田玲子の脚本はさすが! それにしても、今年立て続けに公開されるアニメ映画がここまで“水”繋がりなのには驚きだ。
これまでになくストレートで端正な湯浅監督作品
サーフィンを心の拠りどころにする女子大生が、消防士の若者と恋に落ちるものの、その彼が不慮の出来事であえなく死亡。生きる目的も気力も失ったヒロインだったが、ある時ふと2人の想い出のメロディを口ずさむと、そのたびに彼の姿が水の中に現れるようになる。湯浅監督らしいポップでファンタジックな要素を残しつつ、これまでになくストレートで端正な仕上がりの青春ラブストーリー。世界観としては、前作『夜明け告げるルーのうた』で垣間見せた素朴なタッチの延長線上にあると言えよう。湯浅作品独特のシュールで尖がった作風は控えめだが、その一方で魂の救済を描いた普遍的な瑞々しさに作り手としての成熟を感じさせる。