新聞記者 (2019):映画短評
新聞記者 (2019)ライター4人の平均評価: 4.3
今この国で良心に従って行動することの難しさ
いや、ここまで真正面から攻めて来るとは思わなんだ。あえて固有名詞こそ変えられているものの、劇中に出てくる疑惑や事件の元ネタは誰が見たって一目瞭然。大手報道機関の多くが行政府の御用メディアへと成り下がり、政権批判が日増しに困難となっていく昨今の日本で、その裏側の実態に堂々とメスを入れる本作の持つ意義は大きい。正義と真実を求めて権力の圧力に抗う新聞記者とエリート官僚の葛藤。今この国で良心に従って行動することの難しさを映し出しつつ、国民一人一人の持つべき良識が問われる。正直、語り口がストレート過ぎて映画的な醍醐味に欠ける点は否めないが、作り手の勇気と心意気には惜しみない賛辞を贈りたい。
松坂桃李、役者としての株をさらに上げるも、
モリカケ問題にセクハラ疑惑と、この題材に切り込んだ制作陣の心意気は買いたいし、内調のエリート官僚を演じた松坂桃李は、役者としての株をさらに上げている。ただ、問題は蒼井優も候補だった主人公の新聞記者を演じるシム・ウンギョン。キャラはともかく、たどたどしいセリフ回しは、緊張感溢れる展開において、完全にマイナス要素になってしまった。さらに、クールなスタイリッシュさを狙ったか、モニター画面の文字も読めないほどのボケボケの映像。これが、いろいろと“曖昧”にし、“逃げ”を作ってるようにも見えてしまうのだ。それだけに当初、予定されていた“森達也監督、初の劇映画”が観たかったと思えてしまう。
現政権に忖度せず! こんな日本映画を待っていた
米映画『バイス』や骨太な韓国映画を見る度に日本映画界の不甲斐なさを感じていただけに、久々にアドレナリン全開。
首相肝いりの大学新設の極秘文書流出を巡るサスペンス劇だ。
フィクションだが現政権批判は明らか。その大胆な内容もさることながら人間ドラマが秀逸だ。
社会派を謳う作品でありがちな悪代官や”マスゴミ”といったカリカチュアライズされた人物は登場しない。
官僚や記者も極めて普通。だからこそ一層、真っ当な人が組織の渦に呑まれ懐柔されていく恐怖が伝わってくる。
実際私たちの社会は”美しい国作り”という大義名分のもと、多くの犠牲者を生んできた。
政権の闇を暴いた本作は、彼らへのレクイエムでもある。
久々に本気の日本映画と出会った震える感動と、そして恐怖と
内閣情報調査室(内調)の暗躍を描き、原作は、あの東京新聞記者。これだけで公開までに炎上も予感させる案件だが、今作の場合、騒がれれば騒がれるほど観たい欲求が増すのではないか。
フィクションと現実の境界が限りなく薄まる恐ろしさに終始、慄然。国家を保つための、こうした裏の行動は必要悪とも感じつつ、人間の命が犠牲になることの矛盾を鋭く突きつけてくるのだ。主人公たちを、やや遠目のアングルでとらえるカットが、つねに監視される不安を増幅させ、内調シーンの画調など、映像の「意味」も深い。
松坂桃李が出たことで、観客の間口を広げた意味は大きい。こうした映画に出演するだけで、彼の俳優としての生き方を信用できる。