ブレス あの波の向こうへ (2017):映画短評
ブレス あの波の向こうへ (2017)ライター3人の平均評価: 3.3
大人への階段が上りやすいとは限りません
13歳でサーフィンと出会った少年ふたりの成長を描く青春物語は、心打たれる要素がぎっしり。親友とのライバル意識、初恋、勇気を試される瞬間、そして大人の欺瞞への疑問は大人への階段を上る途中で誰もが経験することだろう。だからこそ、主人公パイクレットの気持ちが痛いほどわかってしまう。みずみずしい魅力を発揮するサムソン・コルターが不器用なくらいに真直ぐなパイクレットを熱演。演技初体験というから、サイモン・ベイカー監督の演出や演技指導が良かったのは間違いない。それにしても、サーフィン映画にはいい映画が多いな。哲学を感じさせるスポーツだから?
ブルーグレーの海と空
カリフォルニアやハワイのサーフィン映画を基準線とするなら、このオーストラリア映画は「色」が違う。静かで、どこか憂いを含んだ日々の営み。しかし時に波は容赦なく荒々しく、生命の喜びと危険が隣り合わせになる(TVで『白鯨』(56年)をやっているシーンあり)。
お話の大枠で言うなら、むしろ思春期ものか。製作総指揮のトム・ウィリアムズは原作について「アメリカ人にとっては懐かしさも覚える」と語っており、主人公の少年&親友コンビはトム・ソーヤとハックルベリー・フィンのよう。初監督のサイモン・ベイカーは文句なしの仕事っぷり。「大人の世界」を最も象徴する妻役のエリザベス・デビッキのアンニュイな存在感もでかい。
サーフィンとガラスの十代は、じつによく似合う
内向的で一見、文化系。もう片方は見るからに悪ガキ。主人公と親友のキャラが対照的だが、ことさら真逆に描かず、誰もが感情移入しやすいティーンエイジャーの関係性で描いたところが好印象。キャストの2人も演技ではなくサーフィン経験で選ばれ、「みずみずしさ」と「本人が挑む本格的サーフィン映像」の両方がクリアされた。作り物感や嘘くささが限りなく少ないのだ。
印象としては、サーフィン映画というより、青春通過儀礼ストーリーの側面が濃厚。経験値の高い年上の男に憧れ、何を学ぶのかを、原作が小説のためか心にしみるセリフの数々で紡いでいく。壊れやすいガラスの心が、強い鋼(はがね)になる時間が、ここには流れている。