SHADOW/影武者 (2018):映画短評
SHADOW/影武者 (2018)ライター6人の平均評価: 4.2
墨絵インスパイアな映像と流麗なアクションが醸し出す美
CGI満載の『グレートウォール』で自身に失望したであろうチャン・イーモウ監督が襟を正した作品だ。残酷な場面でさえ、ある種の美しさを感じさせる芸術性豊かな1本。墨絵にインスパイアされたモノクローム映像には陰陽モチーフや墨汁で書かれた書画が散りばめられ、重要なテーマである水はスクリーンを超えてきそうな勢い。様式美溢れるアクションも健在で、刀で作った傘を使った戦闘場面がとても印象的だ。影武者となった男の悲哀、そして彼と本物の妻との微妙な関係といったドラマ部分も重厚で見ごたえあり。一人二役を演じるために増減量を重ねたダン・チャオの肉体改造も見事で、その役者魂に感服した。
水墨画のような光の微細な変化が味わい深い
水墨画を味わうように、枯山水の庭を観るように、映像に浸ってしまう。映像の色彩を極限まで抑え、白黒のようだがそうではないという微妙な状態に留めることで、光の量の微細な変化を味わせてくれるのだ。
室内には墨で文字の書かれた薄い布が天井から下げられ、それが何枚も重なって揺れ、光の濃淡が変化していく。戸外の出来事の背後に常に見えている風景は、近くの山は濃く、遠くは薄く、水墨画そのもの。霧が満ちていく竹林は、それだけで名画になる。そして雨。雨が激しく降り注ぎ、飛び散りながら光を乱反射させて、光の饗宴を繰り広げる。この影と光に、剛と柔という"動き"の変化が掛け合わされていくさまを、ただ味わいたい。
最凶ガジェット“アンブレラ・ソード”!
『グレートウォール』でハリウッドの水が合わないことを実証したチャン・イーモウ監督が、相変わらずの性悪感満載でお届けする、ダン・チャオ&スン・リー夫婦共演作。『グランドマスター』×『ブレード/刀』を、さらにアート寄りにした世界観に酔いながら、“アンブレラ・ソード”のガジェットとしてのインパクトに圧倒される! 演者が恐怖に怯えたのも納得いくが、コク・ヒンチュウによる香港アクションとの相性もいい。「三国志」繋がりでいえば、『レッドクリフ』での趙雲を思い起こさせるフー・ジュン演じる豪快な敵国将軍もいいスパイスになっているが、スケール感や尺の長さなど、『HERO』には一歩及ばず。
やり過ぎ感満点のアクションも芸術にしてしまう達人の演出技
序盤こそ、ややもったいつけた、ジンワリな展開に入り込みづらいが、中盤からのアクションで、がぜんテンションが上がる。スクリューのように回る傘とか、見たことのない武器を使ったバトルは、大乱舞のショー的であり、イーモウ監督が演出した北京五輪開会式も頭をよぎる。モノトーンの雨中の戦いがメインなので、華やかさよりもスタイリッシュさが優先され、アートを観ている感覚にも陥るのだ。琴の演奏とのシンクロも含め、これだけ異様なレベルで五感を刺激してくるアクション演出は、やはり唯一無二。スクリーンで体験する価値は大いにある。ダン・チャオの二役が、結果的に一人で演じ分けた意味がないほど、あまりに別人なのにも驚き。
これこれ、コレじゃなきゃ武侠好きは楽しめないのよ!
前作『グレートウォール』は何だったのか、と思わせる快作。自分そっくりの孤児を影子に立てた都督と、一見チャラ男だが実はしたたかな王との腹の内の探り合い。「私は何者なのか」という影子のジレンマ。みな一筋縄ではいかぬキャラが各々の思惑で各々のストーリーを立てつつも次第に狂っていく面白さ。都督の妻(つまり影子のかりそめの妻でもある)を巡るエロティシズムとそこからくる枠構造。とにかく脚本が巧いが、シリアスなだけではないのがイイ。敵国の「剛」の剣に対しては「柔」だと、傘を使った女人振りで立ち向かう。その傘も空飛ぶギロチン仕様で、上下にふたつ合わせればマリオの亀よろしく斜面を滑走するアホらしさ!!
古代中国の水墨画が動き出したかのごとき映像美が圧巻!
前作『グレート・ウォール』で「チャン・イーモウよ!一体どうした!?」と衝撃を受けたみなさま、待ちに待った朗報です。我らの巨匠が帰ってきてくれました!「三国志」の<荊州争奪戦>に着想を得た本作は、イーモウ監督にとって『HERO』や『LOVERS』以来となる本格的な武侠アクション。驚くべきは、まるで古代中国の水墨画がそのまま動き出したかのような、限りなくモノトーンに近いダークで幻想的で壮麗なビジュアルの、文字通り目を奪われるような美しさだ。豪雨の中を少数精鋭の部隊が敵の大群に立ち向かうバトル・シーンに黒澤明へのオマージュを感じさせつつ、縦横無尽でダイナミックな特大スケールの作品に仕上がっている。