ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち (2018):映画短評
ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち (2018)ライター3人の平均評価: 4
これは狂気の冒険映画である。
金融や経済を扱った映画はどうにも僕には苦手なのだが、これは違う。NY=カンザス間1600kmのデータ回線を最短距離の一直線に敷き、たった0.001秒送信速度を上げるために心骨削った男の物語。演じるのが『ソーシャル・ネットワーク』のJ.アイゼンバーグだから、その神経症的ともいえる偏執ぶりは鬼気迫る。ある意味『フィツカラルド』におけるクラウス・キンスキーにも似た、夢を追う者の狂気が滲み出るのだ(土木映画でもあるし)。アマゾン原住民でなく、こちらはアーミッシュの家族がその狂気を阻むのであるが。前作『きみへの距離、1万キロ』でもテクノロジーと人間の情を絡ませたK.グエンに揺らぎはない。
派手さがないぶん、いろいろと突き刺さる
光ケーブル回線という最先端技術と、泥臭い人間ドラマ。思わぬ拾いモノだった『きみへの距離、1万キロ』のキム・グエン監督らしい「繋がり」がテーマといえる新作。早口で専門用語をまくしたてる『ソーシャル・ネットワーク』の延長線上ともいえる“変人”芝居で圧倒するジェシー・アイゼンバーグに、『ターザン:REBORN』と同一人物に見えないおっさんっぷりを魅せるアレクサンダー・スカルスガルド。そして、徹底的に憎たらしい元上司役のサルマ・ハエック。三人が醸し出す妙な緊張感に包まれながらの疾走感と笑い、そのノリは『マネーショート』にも近い。つまり、恐ろしく地味ながらも、どこか一筋縄ではいかない。
論理よりも先に情感に訴えてくる、キャストの妙演
簡単にいえば、株取引で一瞬でも早く儲けるために、1600kmもの地中にケーブルを敷設する物語だが、その細かい論理は一般人にはわかりにくい。しかし今作は、その論理が多少不明のまま観ても、エンタメ的テンポの良さで、不思議なほどすんなり入り込める。やや複雑な論理も中盤、超わかりやすく伝えるシーンが用意されるので、モヤモヤも解消。
何より安心して観ていられる理由はキャストだろう。早口で相手を自分の野心に巻き込むJ・アイゼンバーグは、他に差し替え不可能なハマリ具合。逆にA・スカルスガルドはイメージを覆す、とぼけた味と怪演の妙を見せる。それぞれ別の方向から役に血肉を与える成功例を目撃できるのだ。