母との約束、250通の手紙 (2017):映画短評
母との約束、250通の手紙 (2017)ライター3人の平均評価: 4.3
この狂おしいまでに強烈な母の愛情に涙する
これはかつて巨匠ジュールズ・ダッシンがメリナ・メルクーリ主演で撮った、文豪ロマン・ガリの自伝小説『夜明けの約束』の再映画化だ。一人息子が必ず将来大物になると固く信じ、貧困や差別に猛然と立ち向かいながら子育てに人生を捧げたユダヤ系移民の母と、そんな母の時として滑稽なくらい妄信的で狂気じみた愛情に叱咤激励され、彼女の夢と希望を叶えるために猪突猛進した息子。まさしく世界を相手に2人だけで闘った母子の、強烈なまでに深い愛情と絆が描かれる。エキセントリックなんて生易しいもんじゃない母親役を、文字通り全身全霊を込めて演じるシャルロット・ゲンズブールが圧巻!いろんな意味で母は偉大なり。
褒めて伸ばされて成功した作家の驚愕の半生!
独断的なシングルマザーに振り回される少年の物語と思いきや、深すぎる愛情を子に注ぐ母親と期待に応えたロマン・ガリの実話。「将来はフランス軍で勲章を得て、外交官になり、作家となる」と息子に根拠のない夢を託す母親は序盤、毒母っぽい。が、彼女を描写する息子視点が愛に満ちているので、すぐに母子の強い絆と受け入れる。孟母三遷的に移民もするし。演じるP・ニネは線が細く、それ故に母の重すぎる愛に複雑な思いを抱く青年像にリアリティが増す。S・ゲンズブールは最初から最後までエキセントリックな母親を快演。老けメイクもお似合いで、ニネとの母子シーンも違和感なし。見終わって、子供って褒めて伸ばされるんだなと思いました。
母の愛は強すぎたのか?息子は応えられたのか?
息子を“男”に育てるために愛情も厳しさも惜しみなくあたえる。戦場の彼を“勝利するまで戦いなさい、死ぬのは許さない”と叱咤する。現代ならモンスターペアレントと言われかねない母親像だが、20世紀前半の厳しい時代に、それは当たり前だったのかもしれない。
とにかくC・ゲンズブールふんする、このヒロインが面白い。当然、当人は息子のために良かれと思ってやっているわけで、その姿勢にブレがないから、人間ドラマとして見応えがある。
この厳しさもお陰で息子=ロマン・ガリは大作家となった。しかし、ガリの晩年を想うと、この母子の愛は正しかったのだろうか?と考えずにいられない。熱くも切ない親子のドラマだ。