リンドグレーン (2018)：映画短評

　「長くつ下のピッピ」シリーズや「やかまし村」シリーズで有名な、スウェーデンの児童文学者アストリッド・リンドグレーンの若き日を描いた伝記映画だが、それ以前にフェミニズムをテーマにした女性映画として非常に優れている。自由奔放で才気溢れる10代の少女アストリッドが、妻子ある年上の男性に惹かれて子供を身ごもることで、初めて女性に対する社会の偏見や不公平と直面し、周囲から望まれずして生まれた我が子を女手一つで育てようと決心する。一度は手放すことすら考えた息子を優しく抱きしめるアストリッドの、溢れ出んばかりの愛情と強さに思わず涙。彼女が自作で子供たちへ注ぐ温かな眼差しの原点を見る思いだ。

「長くつ下のピッピ」や「名探偵カッレくん」シリーズなどを愛読していたが作家Ａ・リンドグレーンの人となりについては無知。だから、爆発的エネルギーを持て余した少女時代の葛藤や保守的で宗教心の篤い両親との軋轢、10代での妊娠・出産といった思いがけない実像にぐいっと引き寄せられる。か弱そうに見えて、芯が強靭な主人公を演じるアルバ・アウグストの存在感が光る。ヒロインの複雑な心理を奥行きの深い演技で表現していて、リンドグレーン作品から読み取れる不屈の闘志の原点がよくわかった。彼女が下した様々な選択や生き方からも時代はるか先を行く女性だったこともよくわかり、さらに感動。

ピッピにロッタちゃん、やかまし村……北欧の元気な子供の生命力に満ちたリンドグレーンの世界に「可愛い」「癒やされる」など凡庸な接し方をしてきた筆者には驚き！（＆不明を恥じるばかり）。意外に泥臭い波乱の青春期が描かれる。むろんそこには、なぜ彼女は物語を紡ぎ出すようになったのか、という作家の秘密や原点に向かう問いかけがある。

内容的にはオーソドックスな伝記映画に、女性の自立の主題を装填した系譜とも言えるが、新星アルバ・アウグスト（『ペレ』のビレ・アウグスト監督の娘）の芝居が素晴らしい。少女期から恋愛期、母としての葛藤まで顔つきや佇まいが生々しく変わっていく。「女の一生」を演じられる役者！