サイゴン・クチュール (2017):映画短評
サイゴン・クチュール (2017)ライター3人の平均評価: 3.7
とにかくお洒落!ヴェトナム映画の見方が変わる。
’69年、老舗アオザイ店を守る母に反発しニューモードに傾く娘との葛藤劇かと思ったら……突然娘が現代にタイムスリップ。ふたりの自分が平気で同居し、なじりあうというタイム・パラドックス無視な楽しい展開に。しかし娘は現代のファッション界に飛び込むことで伝統的なものこそ核心であり革新的でもあることを知る、という民族的アイデンティティを再考させる仕掛けが見事。衣裳考証も抜かりなく、僕が観た最もお洒落なヴェトナム映画だ。母親を演じるンゴー・タイン・バンは『最後のジェダイ』でローズの姉を演じ、『ハイ・フォン』(Netflixで)では壮絶アクションを披露、製作者としても活躍するヴェトナム映画界の姐御的名花。
ベトナムは映画界もドイモイね!
経済や社会思想の転換となったドイモイ政策でベトナムが世界に門戸を開いて20数年、映画界も刷新されたと感じる女性映画だ。ヒロインの自分探しが軸で、そこに『プラダを着た悪魔』的な女性同士のマウンティングやアオザイに代表されるベトナム文化のちょっとした見直しが加わる。ファッション業界が舞台なので、60年代と現代のファッション比較が楽しめる上、トゥイ・グエンが手がけたアオザイの美しいこと! 惚れ惚れする。美人コメディエンヌのズーン・ラン・ゴックがミス・ベトナムを鼻にかけているヒロイン、ニュイをコミカルに熱演!
ベトナム映画のイメージを一蹴する超エンタメ感!
ノー天気なヒロインやファッショナブルな60年代という時代など、確かにメガヒットを記録した『ベトナムの怪しい彼女』の影響も大きいが、ガチで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』×『ブラダを着た悪魔』な超エンタメ感。しかも、『バック~』のエロ本でおなじみ「Oh LaLa」が、ヒロインの口癖としてオマージュになっていることに、思わずニヤ二ヤ。驚くべきは69年のパートでも、ベトナム戦争の陰惨な雰囲気が皆無であり、とにかく洗練されていること。『バッド・ジーニアス』が日本人のタイ映画のイメージを変えたように、トラン・アン・ユン的なベトナム映画のイメージをブッ壊す起爆剤になってもおかしくない一本だ。