サイダーのように言葉が湧き上がる (2020):映画短評
サイダーのように言葉が湧き上がる (2020)ライター4人の平均評価: 4
時代を経ても変わらぬ音楽と言葉と愛情の力
とある夏休み、俳句を通してしか自分の想いを伝えられない少年チェリーと、歯列矯正がコンプレックスでマスクを外せない少女スマイルが、バイト先で知り合った老人のために思い出の古いレコードを探そうとする。懐かしきわたせせいぞうや鈴木英人のイラストを彷彿とさせる作画デザインは、まさしく’80年代シティ・ポップスの世界。しかも劇中歌を大貫妙子が手掛けている。ちょっと不器用な高校生たちによる、ひと夏の甘酸っぱいボーイmeetsガールなラブストーリーを軸にしつつ、時代を経ても変わらぬ音楽と言葉と愛情の持つパワーを、さりげなく爽やかなタッチで描いていく。愛すべき小品佳作。
ショッピングモールのナイアガラカフェで
こっ、これは鈴木英人! 山下達郎『FOR YOU』はもちろん、『FM STATION』の表紙やカセットレーベルのイラストが脳裏に蘇る。イシグロキョウヘイ監督も明言している様に、本作は海外で人気沸騰――日本のシティポップへの熱烈オマージュとなった。キーアイテムの挿入歌は大貫妙子で(劇中のレコ屋には『Sunshower』も!)、never young beachの主題歌への流れは最高の悦楽だ。
もともと70年代から80年代、都市~リゾートと共に生まれた音楽世界を、田園風景と巨大商業施設が広がる郊外の地方都市に当て嵌めたのも見事。17歳の夏の青春を甘酸っぱく彩るリアルファンタジーが爽やかに弾ける。
いろんな意味で、シティ・ポップ感
地方都市を舞台にした、コンプレックスを持つ高校生たちの王道ボーイ・ミーツ・ガール。とはいえ、俳句とレコードがキーワードになるほか、カラフルかつポップな“わたせせいぞう感”溢れる色彩設定に、大貫妙子による書き下ろし楽曲がマッチするなど、1年寝かした分、よりシティ・ポップ感が醸し出されている。さらに、ミュージシャンでもある脚本家・佐藤大による対照的なアイテムの使い方やリズム感も興味深いところ。主人公たちの行動範囲をショッピングモールに絞ってくれれば、“日本版『モール・ラッツ』”な青春映画になっただけに、若干惜しまれるが、このルックやネバヤンの主題歌にピンときたら、観て損はなし!
過剰なまでに“青春・夏”気分を味わい、テーマを素直にキャッチ
青い空、白い雲、夕暮れの美しさと寂しさ…と、徹底して夏っぽいビジュアルはアニメとして特に驚きはないが、本作の場合、そこに超カラフルな色を過剰なまでに乗せてきて、本能的テンションが上がる。
モール内をスケボーで駆け抜けるアクションや、人物のアップをあえて画面の端に寄せて心情を表現するなど、全体に実写を意識した構図が効果絶大。このアプローチは同時期公開の『竜とそばかすの姫』と似ている。
高校生と俳句の組み合わせも新鮮で、「声に出してこそ、初めてわかることがある」という言葉の大切さが、気持ちいいほど素直に伝わってきた。主人公の一人がマスク姿なのは、期せずして現実とシンクロし、新たな解釈も発生させる。