21世紀の資本 (2019):映画短評
21世紀の資本 (2019)ライター4人の平均評価: 3.5
資本主義は進化したのか? それとも退化!?
18世紀の市民革命から現代の格差社会までの資本主義の変遷をたどり、世界の在り方を問う。俯瞰の視点が新鮮だ。
本作の基になったベストセラーの著者ピケティは、現代の格差の広がりは18世紀の再現と語る。格差解消が実現したのは、ふたつの大戦後のみ。資本を持つ者たちのやり口は、いつの時代も巧妙かつ強硬。歴史を追って丁寧に語られるそれらは経済に疎い自分にも飲み込みやすい。
興味深いのは、第二次大戦後に台頭した中産階の衰えと、それがもたらす影響。勤労が報われる時代は終わり、労働は資本主義から切り離され、リベラルは衰退した。そんな社会の仕組みも見えてくる。ヘビーな現実だが、直視しないといけない。
結局、庶民はリッチにはなれないと思い知るね
トマ・ピケティら経済学者が資本主義の成り立ちや社会混乱と経済の関係を解説しつつ、富の不均衡(格差)に警鐘を鳴らす。難解な経済学の話だが、例えとして『レ・ミゼラブル』や名作『怒りの葡萄』、アニメ『ザ・シンプソンズ』などが挿入されるのでわかりやすい。富が権力を生む構造は大昔から変わっておらず、 “民主主義=平等”の幻想にすがりついてきた私たち庶民も格差社会の一端を担ったと知る。しかし経済学者が理屈を並べたところで世界の富の大半を1%の富裕層が握っている事実は変えがたく、富と権力は次世代に委譲されていき、格差も広がるのみ。結局、リッチになれないと思い知るのみ。
格差社会をまるっと解説
分厚いうえ、完読が難しかった経済学書を、「なぜ、現代の格差社会ができてしまったか?」というテーマなどについて、著者自らが噛み砕いて解説。なんせ、300年の経済史の例えに映画やアニメのシーンを使っているのだから、『パラサイト』などで興味を持った学生たちにとっては入り込みやすい。しかも、ニュージーランド人の監督らしく先住民族マオリ族を描いた『UTU/復讐』が入っているのは、興味深い。有力な指導者不在=Gゼロを提唱するイアン・ブレマーらの有難い言葉もありながら、18世紀に見られた現象が起こりつつある恐ろしさも語られており、目先の解決策は出ないものの、現状を知る意味でも重要な一本といえる。
現代映画のサブテキストとしても
冒頭で流れるLORDE「ロイヤルズ」がヒットした頃('13年)に登場したピケティの著作。18世紀以降(中世貴族・産業革命・大恐慌・世界大戦など)の歴史を踏まえつつ、数年の推移を経た現状を撃つ“劇場版”はこれ以上ないほど平易な解説動画となった。
原作の核となる格差拡大の公式“r>g”は必然的に最近の重要な映画群のテーマでもある。「モデルを変えないと資本主義はもはや労働とは無関係」とは評論家イアン・ブレマーの発言。本作では『ゴールド・ディガーズ』『怒りの葡萄』から『エリジウム』まで様々な映画が引用されるが、新作で参照すべきは仏の暴動映画『レ・ミゼラブル』、『家族を想うとき』『パラサイト』だろう。