ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒 (2019):映画短評
ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒 (2019)ライター7人の平均評価: 3.3
風刺的な示唆に富んだ王道的な秘境アドベンチャー
ストップモーション・アニメとして史上初のゴールデン・グローブ賞受賞を果たした作品だが、なるほど確かに縦横無尽でダイナミックなカメラワークの躍動感は素晴らしいし、細部まで徹底的に作り込まれたレトロな美術デザインにも目を見張る。旧態依然とした紳士クラブから除け者にされた英国の野心的な冒険家が、進化論に基づく自らの仮説を証明するため、幻の類人猿ビッグフットのMr.リンクとともにヒマラヤへ赴き、伝説の楽園シャングリラを探し求めるというお話。『インディ・ジョーンズ』的な正統派アドベンチャーをベースにしつつ、思考のアップデートを拒む保守的な権威主義や差別的な優性思想への痛烈な批判が込められている。
意外に深いテーマを含む冒険アニメ
子供から大人まで楽しめる冒険と友情のアニメで、孤独な魂の共鳴という意外にも深淵なテーマを含んでいる。主人公フロスト卿と森で孤独に生きるビッグフットはハンターと獲物だが、冒険が進むうちに二人の共通点が見えてくる。H・ジャックマンの声のせいもあって完璧に見えるフロスト卿は自己愛が強すぎてきちんとした人間関係を結べないし、ビッグフットはかなりのマヌケ君。まさに凸凹コンビで、トラブル続きの珍道中はハリウッドの伝統を踏襲している。また『デッドウッド』のT・オリファントが声を当てた悪役も登場し、西部劇ファンならたまらないはず。映像の美しさも感動ものだ! ただし、キャラの絵柄は好みが分かれそう。
もはや、ヒュー・ジャックマンの『八十日間世界一周』
あまりに圧倒的なクオリティゆえ、もはやストップ・モーションアニメとしてのスゴさが伝わらない状況になっているスタジオ・ライカ作品。今回は時折織り込まれる英国的ユーモアと酒場での乱闘や船内でのアクション・シークエンスとのバランスなど、まるでヒュー・ジャックマン主演による『インディ・ジョーンズ』<<<『八十日間世界一周』な胸躍るアドベンチャーだ。その相棒がビッグフットという「ワーナーの『スモールフット』やドリームワークスの『スノーベイビー』とは違う!」感溢れる設定もさすがだが、どこか既視感あるストーリーなど、前作『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』と比べてしまうと、新たな発見は少ない。
超人的レベルの技術で、より幅広い層にアピールする物語へ
万単位もの表情の変化が可能というキャラクターに加え、細部のテクスチャーへのこだわりなど、ストップモーションであることすら忘れる神業レベルの完成度はもちろん、船の揺れを体感させるなどシーンごとの演出も完璧。それ以上に印象に残るのは19世紀の感覚で、船や馬車、列車を駆使したアメリカ横断から秘境までの旅の道のりがノスタルジックな冒険心をくすぐり、心地よい。
見せ場のアクション設計など、『コラライン』や『KUBO』に比べると、スタジオライカ作品がディズニーほかメジャー会社の作りに近づいてきた印象。題材が題材なだけにスケール感を伴うのは必至だが、大切な宝物がメジャー化しつつある一抹の寂しさも感じた。
英国紳士のスーツの"手触り感"に浸る
ストップモーション・アニメの魅力は多々あるが、その一つは手触り感。この映画でも英国紳士が旅行に行く時に着るツイードの三つ揃いの布地の質感にうっとり。英国貴族の家の壁紙や額縁、部屋の調度品の使い慣れた感じもいい。それでいてミッシング・リンクの毛並みは、架空の生き物に相応しく、リアルな生物の体毛とはまったく違う、デザイン化されたもの。そのリアルさと様式美のさじ加減が絶妙。さらに、地球をぐるりと回るロードムービーなので世界各地の絶景が見もの。19世紀の英国ロンドンの街並み、アメリカの港、開拓途上の山奥の町、深い森、そしてチベットの秘境まで、立体アニメで作られたさまざまな光景が胸を躍らせてくれる。
愛すべき友情と冒険の物語
第33回東京国際映画祭にて。
アメリカでの興行的な苦戦があったためにもう一つ話題になっていない感がありますが、流石は賞レースを賑わしただけある面白さです。
『コララインと魔女』『KUBO』のスタジオライカの実力健在を感じさせます。
ボイスキャストではやはり若干周りを見れてない若き冒険者を演じたヒュー・ジャックマンが好演。
この人はやはりコメディ、ユーモアの素養がありますね。
メリハリが効いていてなおかつダイナミックな演出、見応えたっぷりです。
セットデザインが素晴らしく、自分が旅している気分になれる
恐ろしく我慢強い作業の積み重ねで作られるストップモーション・アニメで、キャラクターにこれだけ激しいアクションをやらせるとはなんともすごい。さらに素晴らしいのは、セットデザイン。舞台はロンドン、アメリカの西部、森の奥地、海の上、そしてヒマラヤへと移るのだが、それぞれの風景が美しく、まるで自分が旅しているような気分になれる。ストーリーは、楽しくチャーミングながら、やや奥行きに欠ける感じ。それでも、反差別や、友情の大切さといった事柄にも触れているし、アデリーナが、男性に頼らない、独立心旺盛な女性として描かれているのも良い。