泣く子はいねぇが (2020):映画短評
泣く子はいねぇが (2020)ライター4人の平均評価: 4
もはや「男ってバカだからしょうがないよね」は通用しない
結婚して子供が出来ても父親の自覚なし、いつまでも男友達とつるんでヤンチャしていたい。嫁のSOSサインにも鈍感でピンと来ず、真剣に注意されてもヘラヘラ笑いながらその場をしのごうとする。そんな日本全国津々浦々のダメ男たちに猛省を促すような映画と言えるだろう。しかも、男ってバカだからしょうがないよね、という言い訳を微塵も許さない。淡々とした語り口がまたリアル!それでいて、己の愚かさを心底思い知らされた主人公が、地べたを這いつくばるようにもがき苦しみながら成長してく姿を、どこか暖かな目で見つめるような優しさもある。『生きちゃった』に続いて不器用で中途半端な男を演じる仲野太賀が超ハマリ役だ。
大人になること、それは”なまはげ”よりも怖い!?
秋田出身で、幼い頃になまはげとの遭遇を経験したことのある筆者には身につまされる……というほどではないが、「大人になる」「きちんと生きる」ということを考えさせられたのは間違いない。
子どもが生まれても注意力散漫な性格から抜けられない。親の自覚や、地元で生きている自覚が足りない。結果的に大事なものを失い、どう行動するかが物語の肝となるが、そこに人としての“成長”を見ることができる。
主人公のセリフにもあるが、東京と田舎の暮らしの速度は全然違う。田舎の独特のテンポをとらえたユーモラスな語り口は、訛りを含めてリアルを感じた。監督も秋田出身というが、対象と真摯に向き合う姿勢込みでグッとくる。
作品ラッシュの仲野太賀、今作は共感のバロメーターになりそう
これまで主役を支えるポジションが似合いすぎていた仲野太賀は、どんな作品でも観る側の共感度を高める役割を果たしてきた。頼りない父親という主人公を託された今作でも、飲みすぎて明らかに酔っ払ってるようにしか見えない表情や、いい歳をして「童貞?」と聞かれた時の照れ笑いなど、前半部分は演技のテクニックで否応なしに共感を誘う。ただ中盤からの展開は、この主人公に感情移入できるかどうかの分かれ道。気持ちが痛いほど理解できれば、じっくりと撮られたシーンにも没入でき、ラストの感動は特大となる。少なくとも、大人になりきれない大人の屈折した言動はとことん切なく、難役に対する仲野太賀の敢闘演技は誰もが認めるはず。
泣かせることしかできな鬼は
縁あって短編時代から佐藤監督の作品には触れてきましたが、商業・長編デビューとなる本作でも、基本的なスタイルは変わっていないようです。
秋田を舞台になまはげという土地柄を感じさせるものを物語のど真ん中に据えましたが、とは言え、変に奇をてらうようなこともなくストレートな人間の弱さを描いた物語に仕上がっています。
物語を体現した仲野太賀、今までのイメージをガラッと変えてきた吉岡里帆を中心に、細部に至るまでキャストが有機的に機能しています。