マティアス&マキシム (2019):映画短評
マティアス&マキシム (2019)ライター5人の平均評価: 3.6
2つの視点から描く友情とセクシャリティの波乱
幼い頃から大親友の若者2人が、自主製作映画の撮影でキスしたことから、お互いを強く意識して揺れ動く。グザヴィエ・ドラン監督が触発された作品ということで、『君の名前で僕を呼んで』がたびたび引き合いに出されるが、本質的に似て非なる作品だと思う。同性愛など他人事の「普通の世界」で、複雑な問題を背負いながら生きるクローゼット・ゲイのマキシム。弁護士の仕事と美しいガールフレンドに恵まれ人生順風満帆、これまで自分のセクシャリティに疑問を持つ必要もなかったマティアス。そんな2人がキスをきっかけに戸惑い傷つけ合いつつ、自らの人生や友情を見つめ直していく。どちらに視点を置くかで見えるものも違ってくるだろう。
ホモセクシュアルにとらわれない切なさの風景
とても丁寧に作られたラブストーリー。『君の名前で僕を呼んで』に感動したドランが、触発されて作ったというのも納得がいく。
惹かれ合う主人公ふたりと、彼らを取り巻く友人たちの関係の描写が自然体で、すんなりと気持ちに入ってくる。マキシムの顔の痣に付いて、まったく言及がないな……と思いきや、ここぞというタイミングで、それに触れるストーリーテリングの巧さも光る。
こぢんまりとした世界の話で派手さはないが、それゆえに濃密で、なおかつビジュアルは芳醇だ。キャラに張り付く手持ちカメラが心情をリアルに伝える一方、横移動の映像は美しく焼きつく。繊細に撮られた映画でもある。
友情から始まる恋には男女共に悩むよね
男女間の友情は成り立つか?から始まった『恋人たちの予感』を思い出させる愛の物語だった。息子と母親の歪な関係を描いてきたX・ドラン監督らしい毒母も登場するが、メインとなるのは青年たちの友情だ。親友への友情を超えた感情に気づいて葛藤するマティアス&マキシムと、彼らを取り巻く友人たちの関係性がとても瑞々しくて、優しい。恋の始まりって胸きゅんですな。マキシムのセクシュアル・マイノリティゆえの苦悩も感じさせるが、それを普通のことと受け入れる仲間の存在が観客にとっては癒しとなる。映画監督を目指す少女の頭でっかちな発言が頓珍漢で、素敵なコミック・リリーフだ。今までのドラン作品にはいないキャラで、とても新鮮。
純粋な恋の感情におぼれ、演技者としてのドランの魅力全開
信頼できる仲間と撮影しただけあり、グザヴィエ・ドラン監督作としては珍しく親密な空気が支配。その場に居合わせた感覚をおぼえ、リラックスした青春映画の趣。一方で、仲間たちの会話があまり物語を動かさなかったりして、観る側の集中力を途切れさせる可能性も。
それにしても、ずっと友人だった相手と、映画撮影のための1回のキスが、眠っていた恋心をめざめさせるなんて…気恥ずかしいほどピュアじゃないか! ドランのロマンチストな性格を垣間見るよう。久々の自作への出演で、30歳を迎えながら、十代のような純真無垢な感情をストレートにぶつける。そんな彼の姿から今作に限っては、演出家より、演技者としての魅力が伝わってきた。
英国男優ハリス・ディキンソンにも注目
監督自身が「君の名前で僕を呼んで」へのオマージュだと語る通り、あの映画同様、ここからいなくなる青年とここに残される青年、2人の微妙に揺れ動き続ける想いを正面から描き出す。画面の構図にもオマージュが続々。加えてこちらは幼なじみの親友で、周囲には同世代の友人たちもいて、家族の問題もあり、思いには様々な側面がある。
そんなドラマの中で、予想外に目を奪うのが、トロントからやって来る取引先社員役の英国男優ハリス・ディキンソン。「ブルックリンの片隅で」では同性への興味に悩む青年を好演、来年公開の「キングスマン:ファースト・エージェント」ではレイフ・ファインズと主演コンビを演じる注目株だ。