キーパー ある兵士の奇跡 (2018):映画短評
キーパー ある兵士の奇跡 (2018)ライター4人の平均評価: 3.5
サッカー映画というより、人間の愚を描いた力作
サッカーファンではない自分には初めて知る、伝説のゴールキーパー。サッカーは確かに重要なエッセンスだが、それを超えたテーマが宿っており、重みを堪能した。
英国の捕虜になり、終戦後も居残ってサッカーで頭角を現わすドイツ人。”ナチ野郎!”という罵声をプレーで跳ね返してしまう主人公像は『42 ~世界を変えた男~』を彷彿させずにおかない。アスリートが引き起こせる奇跡にアツいものを覚えた。
とはいえスポ根ドラマと少々趣が異なるのは、戦争と、それが引き起こす民族的な分断、それでも続く人生を重視しているから。本作の重さは結局のところ、人間の愚かさや、それに起因する悲劇から来る。歯応えアリ、だ。
元捕虜が敵国で国民的ヒーローとなる驚き!
捕虜だったドイツ兵士バートが第二次大戦後、イギリスの国技ともいえるサッカーの伝説的存在となった実話に驚く。地元チームの監督の娘への恋心が募って帰国を断念したあたりは脚色だろうが、名門チーム入団時のイギリス人の反発ぶりなど史実に忠実に描写されているようだ。過去を暴かれた主人公と家族の苦悩は理解できるし、サッカー好きなラビの赦しと英断に目頭が熱くなった。スポーツにイデオロギーを持ちこむべきか否かを考えるはず。心情的には悩むな〜。バートがバート自身のトラウマと愛児の身に起きた出来事がを重ね合わせる演出もドラマティックだ。D・クロスはいかにも気真面目な雰囲気があり、バート役にぴったり。
英国フットボールの実話に基づく"許し"の物語
許しの物語であり、つぐないの物語でもある。第二次世界大戦直後の英国を舞台に、実話をモチーフにして、英国人の心意気を描く物語でもある。映画は、それをあえてノスタルジックな色調と柔らかな手触りで昔話として描き、かつてはこういう実話があった、今、それを思い出そうじゃないかと、静かに語りかけてくる。そのようにして、現在世界中で起きている様々な"分断"への問いを投げかけてくる。
英国の田舎の季節の移り変わり、地元対抗のフットボール試合の熱狂、ヒロインの父親などのひと癖あるが気のいい男たち、それらの雰囲気が、シリアスな問題を内包するこの物語に暖かさを与えている。
戦争が個人にもたらす悲劇と、不屈のヒーロー実話の美しき合体
ある程度、予想どおりに進む心地よさ。そこに要所でのサプライズ。このバランスが映画的に巧みで、これを観て「つまらない」と感じる人は限りなく少ないだろう。そんな見本のような一作。
サッカー場面が前半こそ物足りない気もしたが、見せ場ではきっちりと、しかも過剰にならず、映画のリズムを崩さないところが好印象。
終戦後、ナチスに従った元ドイツ兵として個人攻撃の差別を受ける主人公の姿も、わかりやすいとは言え、「罪を憎んで人は憎まず」と頭で理解しても、そうなれない人間のサガと集団心理を突きつけられ、現在と地続きの感覚に陥る。
そして何より、戦争がもたらす悲劇とトラウマ、代償と克服は、心をえぐるほどに痛々しい。