ADVERTISEMENT

声優夫婦の甘くない生活 (2019):映画短評

声優夫婦の甘くない生活 (2019)

2020年12月18日公開 88分

声優夫婦の甘くない生活

ライター7人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.7

森 直人

イスラエルにおける1990年という時代の刻印

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

ソ連完全解体の直前、イスラエルに移住したユダヤ人夫婦の物語だが、風変わりな『ニュー・シネマ・パラダイス』でもある。映画の祝祭が起こる場のメインは海賊版のレンタルビデオ屋。『ダイ・ハード2』を返却して『ロボコップ2』を借りる客など、79年生の監督の少年時代の体験が反映されており、その延長でフェリーニの遺作(当時の新作)『ボイス・オブ・ムーン』がフィーチャーされる。

奥さんがテレフォンセックスの職に就く流れは『やわらかい手』を連想。作風はアキ・カウリスマキの影響が強いようだが、もっと「仕掛け」が多く、フセインのスカッド攻撃の件はジョー・ダンテの傑作『マチネー』のキューバ危機に相当すると思った。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

ソビエト時代ロシアの外国映画事情も垣間見れる

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ソビエト時代に外国映画の声優だったユダヤ系ロシア人夫婦が、移住先のイスラエルで言葉が分からないため就職先探しに悪戦苦闘し、やがて理想にこだわる夢追い人の夫とシビアで現実的な妻との間に溝が生まれていく。多くの日本人にとっては意外かもしれないが、鉄のカーテンと呼ばれたソビエトでも国家予算とイデオロギーの許す範囲内において西側の映画は普通に見ることが出来た。筆者が初めて『サウンド・オブ・ミュージック』を見たのも『恐竜・怪鳥の伝説』を見たのも当時のロシア。そんなソビエト事情の裏側を垣間見る意味でも興味深いだろうし、プガチョワの「100万本のバラ」に込められた郷愁にもグッとくる。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

映画ファンのツボを突いた闇堕ち

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

タイトル通り、“甘くない”ブラックコメディではあるが、1990年という激動の時代背景とともに、新天地イスラエルにやってきた老夫婦の闇堕ちっぷりが、フィンランド産の『ブレスレス』より、アキ・カウリスマキ風味といえるのがツボ。七色の声を生かし、テレクラバイトに励む妻に対し、夫は映画&フェリーニ愛が転じて、映画泥棒(いわば盗撮!)から海賊ビデオの吹き替えバイト。C.V.なんてワードが似合わないぐらい泥水すすりっぱなし状態ゆえ、よろしく哀愁。主人公と同じロシア移民であり、海賊ビデオで映画を学んできた監督の渾身の一作にして、コロナの影響から自国では未公開というエピソードも泣けてくる!

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

山あり谷あり人生にも希望があると思わせます

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

ペレストロイカが進むソ連でイスラエル移住が許可され、多くのユダヤ系ソ連人が移民したが、人生が一変した人ばかりだったろう。想像するだに切ない状況だが、声優夫婦を主人公とする本作はセンスのいいコメディに仕上っていて好感度大。さまざまな立場の移民の微妙な心境を巧みにすくい上げたE・ルーマン監督自身も移民と知って、納得だ。希望に胸を膨らませて移民したが、アイデンティティの危機に直面する声優夫婦を演じる役者の演技が素晴らしい。まさにベテランの技なり! V・フリードマンが演じる夫の不器用ぶりやちょっと古臭い映像はカウリスマキ作品を思わせるし、夫妻とフェリーニの関係など映画愛に満ち溢れている。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

新天地で生きる逞しさに、映画愛、夫婦愛が絶妙なハーモニー

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

ベテラン声優という「あこがれの職業」を得た主人公夫婦が、言葉も通じない新天地で仕事を見つける切実さは、声優文化が発達するここ日本で観ると、より胸がかきむしられるかも。そんな第二の人生への悪戦苦闘ドラマに、夫婦間の微妙な愛とすれ違い、フェリーニを中心にした映画オマージュ、1990年、イスラエルの驚くべき日常を硬軟自在にバランスよく配置。声の特技を駆使した妻のテレフォンセックス稼業や、堂々と劇場で「映画泥棒」の手伝いをする夫など、笑いが込み上げるエピソードにいちいちホッコリしてしまう。冷静に考えればシビアな話だが、基本、軽快なタッチで進むので、心に深く突き刺さるというより、愛すべき一作という印象。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

声優夫妻の映画への愛が世界を暖かくする

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 さまざまな声を演じられるのに、自分の声を出す方法が分からない夫。ある声を使って架空の人物を演じるうちに、それを自分だと思ってしまう妻。声を自在に操る声優夫婦なのに、自分の本当の気持ちを声にするのが難しくて摩擦が起きる。そんな彼らが生きる世界はどこかユーモラスで暖かい。
 その世界をさらに暖かくするのが、声優夫婦の映画への愛。夫婦の信念は「吹替こそ映画への入り口」。夫は70年代ハリウッド映画のセリフを暗記している。外国映画が上映されないソ連でフェリーニ映画が上映された史実を踏まえて、フェリーニの遺作「ボイス・オブ・ムーン」が作中に登場。邦題もフェリーニの「甘い生活」へのオマージュになっている。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

笑って、ジンワリしみる、老境のひとコマ

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ルーマン監督はいったい、おいくつなのだろう……と考えながら見たが、自分よりもひと回り年下と知り、少々驚いた。

 変わりゆく世の中の現実を見つめ、湾岸戦争期という過去を描きながらも今の時代の映画として成立させる。何より、主人公の老夫婦の転機を的確に切り取り、笑いや切実さとともに描く妙。アキ・カウリスマキ作品から影響を受けたとのことだが、それも納得。

 環境の変化に適応することは、頑固者には難しいが、大切なものが何であるかを考えたとき、おのずと答は出る。そんな人生において大切なことをサラリと言える巧さ。良い意味で老成した監督のセンスの良さに唸った。

この短評にはネタバレを含んでいます
ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT