マーメイド・イン・パリ (2020):映画短評
マーメイド・イン・パリ (2020)ライター4人の平均評価: 3.8
パリの街角には孤独な青年と可憐な人魚の恋物語が似合う
パリのセーヌ川に浮かぶ時代遅れの古びたバーで歌う孤独な青年が、傷を負って川岸に倒れている可憐な人魚を助け、やがて恋に落ちてしまう。いやあ~、実にロマンチックじゃありませんか!身を守るため美しい歌声で男性のハートを虜にして殺す…という人魚伝説がまた上手いことストーリーに生かされている。ポップでレトロでカラフルでファンタジックなビジュアルは、それこそジャン=ピエール・ジュネとペドロ・アルモドヴァルのハイブリッドといった感じで、むちゃくちゃお洒落!ロッシ・デ・パルマの使い方も心得ている。なにより、『天使とデート』のエマニュエル・べアールに匹敵する人魚役マリリン・リマの可愛らしさよ!
パリにはファンタジックな恋が似合う気がする
アニメから実写へ切り替わるオープニングからワクワクし、ヒロインが人魚という段階で心のスイッチがファンタジー・モードに切り替わる。人間を恨む人魚と恋に耐性がある風変わりなガスパールの恋模様、おせっかいな隣人と復讐に燃える女医の突拍子もない絡みも不思議にすんなりと頭に入る。監督のセンスのいい演出のせいか。ガスパールの宝物である本がそのまま実写なったような映像美が印象的で、おしゃれなインテリアやレトロなファッションを見るだけでも楽しい。役者は全員ハマっていて、特に隣人役のロッシ・デ・パルマから目が離せない! そして本筋とは無関係だが、トゥクトゥクを借りパクされた男性のその後が気になった。
やはり人魚の映画は、こうでなくちゃ!
人間が人魚に恋してしまう映画として『スプラッシュ』、もっと言えば『リトル・マーメイド』のような「ときめき系」を踏襲しつつ、『シェイプ・オブ・ウォーター』に近い切実さと生々しさも巧みにブレンド。いいとこ取りが好結果につながり、人魚映画に抱く期待感を見事にクリアする。
過剰なまでにカラフルなうえ、VHSビデオやレコード、とび出す絵本などアナログ強調の美術が、ちょっとだけ非現実的な世界にぴったり過ぎて、ときめき度は上昇するばかり。
シンプルに主人公2人の恋の運命と観ても、とくに後半は共感度が高い。『インセプション』でも印象的だったピアフの名曲「水に流して」が、メロディも歌詞も美しくハマるのであった。
アニメも撮る監督の甘く愛らしいオモチャ系ファンタジー
オモチャのように愛らしい。監督は音楽家で小説家で、アニメ映画「ジャック&クロックハート 鳩時計の心臓をもつ少年」で時計仕掛けとサーカスを甘くノスタルジックな色と形で映像化したマチアス・マルジウ。本作も人形アニメのような映像から始まり、それを境目なく滑らかに実写映像へ繋げつつ、重要アイテムには飛び出す絵本を配して、オモチャっぽさを忘れない。今回もアニメ同様、すべてを監督の好きなものだけで構築。主人公は、もう若くないのに恋に破れてばかりいる古風な歌手。彼が歌う場所は、船として河に浮かんでいる酒場。そして、彼が恋に落ちるのは、人魚。どの時代かすら分からない時間のない世界が、どこまでも甘く愛らしい。