ベイビーティース (2019):映画短評
ベイビーティース (2019)ライター7人の平均評価: 3.9
ままならぬ現実を嘆くよりも今ある生を謳歌することを選んだ少女
重い病気を患った14歳の少女が、年上の不良青年と恋に落ちる…というと、ありきたりなラブストーリーのように聞こえるかもしれないが、しかし少女は腫れ物に触るような両親に不満を抱え、自らへ向けられる憐みの目を呪う怒れる反逆者。一方の青年も家族からも見放された、見るからにヤバそうな麻薬中毒者だ。そんな孤独で不完全な若い男女が、ありのままの自分を先入観なしに受け入れてくれる相手に救いを見出し、その不器用でストレートな愛情が周囲の人々をも癒していく。ままならぬ現実を嘆くのではなく、その中で最善を尽くして生を謳歌することの大切さに気付かされる。
お決まりのパターンではなく、複雑で深い
死が迫った中での悲しい恋物語は数多くあるものの、今作はお決まりのパターンとほど遠い。主人公ふたりの間にあるのがピュアな恋なのかどうかが、良い意味で曖昧なのだ。多感な年齢な上、病を抱えていることから時に無謀になるミラにとっては好奇心と冒険心なのかもしれないし、真っ当な職も住処も持たないモーゼスは、精神科医であるミラの父が処方した薬を狙っているのかとも思わせる。両親が、娘にモーゼスは絶対ふさわしくないと思いながらも次第に受け入れていく様子や、モーゼスがドラックを使うのを批判する一方で実は自分たちも心の安定のために薬を使っているという矛盾も、ストーリーに説得力を与える。
愛が人を強くする!と信じたくなる初恋物語
冴えない少女ミラとチンピラ青年の恋物語と書くと少女漫画っぽいが、描かれるのは単なるウキウキではない。登場人物はそれぞれ屈折した思いを抱えていて、ミラの初恋がそれらを解き放っていく過程に説得力あり。16歳にして相手を丸ごと受け入れる懐の深い愛情を示すミラに神々しさも感じた。綿密に計算された映像や色彩パレットのおかげで観客はミラの感情を常にキャッチでき、彼女がどんどん逞しくなるメンタルを実感。「愛が人を強くする」と信じさせてくれたS・マーフィ監督は、これが長編デビュー。秀逸なストーリーテリングの才能は期待大! ミラ役のイライザ・スキャンレンの無垢な雰囲気もキャラクターをより魅力的にした。
ハマリこむ瞬間を見つければ沼になる、リトマス試験紙のように…
一応、難病モノなのだが、その深刻度はあくまであっさりと付随的。突然出会った相手に対し、感情が混乱しつつも、本気モードに陥っていく少女の、100%ラブストーリーとして迫ってくる。
言動は極端で予想不能、クスリに頼る相手との恋は、明らかにアブない予感が漂うが、親や近所の大人たちが輪をかけてヤバいムードなので、主人公たちが「純化」されていく感覚。ふと彼らの思いに寄り添えた瞬間、最初で最後の切実な運命にどっぷり共感してしまう作品かと。だから、その瞬間を見つけられないと、感動部分も含め、やや冷静な目で最後まで観続ける人もいるはず。その場合も、カラフルなビジュアルの効果など、視覚的にときめくパートは多い。
ドラッグス・ドント・ワーク…のその後で
「選択肢がひとつなら、人は美しさより機能性を重視するようになる」というセリフが序盤にあるが、そのままこの人間ドラマを言い表していて興味深い。
若いキャラが生きることに美しさを求める一方、ヒロインの親たちは多忙な大人らしく機能的に生きている。が、機能の追求に疲れ、薬に救いを求めるのは正しい生き方なのだろうか!?
奏でたり、歌ったり、踊ったりすることは、ときに薬以上の効き目を発揮する。そこが本作の肝。一方でヒロインの生のタイムリミットは、人の短い一生をはっきりと意識させる。さて、我々はどう生きる? そんなことを考えずにいられない、美しくも愛おしい必見作。
愛こそはすべて。
三女・ベス役だった『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』では、知名度の低さもあってか、どこか地味な印象があったエリザ・スカンレンが、文句なしに圧倒的な存在感を放つ主演作。札付きの不良と難病を抱える少女の運命的なラブストーリーだけに、確かに少女マンガの定番ような設定ではある。だが、ヒロインと彼女の両親の視点で異なる撮影を行ったことによる没入感に、写真家ウィリアム・エグルストンの作品を意識した計算された画作りや色彩などから、明らかに作家性の強いキラキラ映画に仕上がっている。若干尺が長い気もするが、登場人物を最小限に絞るなど、戯曲の映画化らしさも功を奏している。
青系のグリーン、淡い珊瑚色----色彩が魅了する
色彩に魅了される。画面に出現するいくつかの色が、淡いのに強烈な個性を持っている。16歳の主人公のウィッグの不思議な青がかったグリーン。それと同色で光沢のあるドレス。エンドロールの淡い珊瑚色。その前の薄い水色の海。主人公の見る世界は、このような色をしているのに違いない。
彼女は逃れられない病を得ているが、そんな時にも"恋"はいきなり訪れる。病のせいでいつも死と生を意識せずにはいられず、恋がさらに力を増す。あらゆる恋につきものの誤解も問題もあるが、本作はそこからも目をそらさない。映画の中で、ドラマがふと別の世界になる瞬間が何度かあり、その変容の起因となるのが、いつも音楽なのもいい。