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Swallow/スワロウ (2019):映画短評

Swallow/スワロウ (2019)

2021年1月1日公開 95分

Swallow/スワロウ
Copyright (C) 2019 by Swallow the Movie LLC. All rights reserved.

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.8

相馬 学

“結婚”という名の異物をめぐる女性視点の寓話

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 “swallow”という単語には“飲み込む”の他に”耐え忍ぶ”“抑える”という意味があるが、それを踏まえると内容をよく表わしたタイトル。

 金満夫の無理解に耐え忍び、自分を抑えつけたあげく異食症となってしまうヒロイン。彼女の異物を食べる行為にスリルを漂わせつつ、そんなスワロウ状態からの脱却を人間ドラマとして機能させている点が面白い。映像の構図もイチイチ絵になり、インパクトがある。

 本作の異物食の背景には、心が異物を取り込んでしまったことがある。結婚という名の異物により、心も消化不良を起こしてしまったかのよう。無理をせずに生きなさい……と女性たちに語りかけるようなラストが印象に残る。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

優れた心理スリラーかと思ったらそれ以上だった

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

映画の始めの幸せそうなシーンからも、静かに、じわじわと悪い予感を覚えさせ、恐怖感を高めていく手法は、とても効果的。だが、もっとすばらしいのは、一風変わった心理スリラーかと思わせておいて、途中から、アメリカにおける中絶の複雑さや、性犯罪が与える傷がどんなに長く、広範囲に及ぶのかなど、女性についての問題に触れていくことだ。これは、自己肯定感を抑圧される環境に置かれてきたひとりの女性が、ついに自分に向き合う、成長とエンパワメントのストーリー。その辛く、苦しい心のジャーニーを、セリフが少ない中でも表現したヘイリー・ベネットに大拍手。セットデザインと音楽も、視覚、聴覚を刺激する。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

作り込まれたカットに息を呑む

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

「異食症」というテーマといい、色彩美を捉えたポスターヴィジュアルといい、カナダ映画のような低温といい、なかなかのインパクトを放つアメリカ=フランス合作。ヒロインが“飲み込む”行動だけでなく、冒頭のバックショットから、なぜか清々しいラストからのエンドロールまで、長編デビューとは思えぬカーロ・ミラベラ=デイヴィス監督の丁寧に作り込まれたカットに息を呑むだろう。夫のモラハラや家庭内の鬱屈などから湧き上がった危険すぎるフェチからフェミが芽生える若妻を好演したヘイリー・ベネット映画としても見応えアリ。ただ、過去の自己のトラウマと向き合う後半にかけての展開は賛否分かれるところ。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

不都合な異物を呑み込むことで偽りの幸せを演じる女性の存在証明

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 リッチで意識が高くて非の打ちどころのない家族に嫁入りした女性が、完璧な妻を演じることのストレスやプレッシャーから、石や安全ピンや電池などの異物を呑み込むという衝動に駆られるのだが、やがて長年抱えてきた、より深い心の傷が浮き彫りにされていく。いわゆる異食症をテーマにした作品。誰かに愛されたい、求められたい、見捨てられたくない。しかし、自分が愛される価値のある人間だとは思えない。そんな不安を抱えながらも私は大丈夫だと自分に言い聞かせ、不都合な「異物」を呑み込んで偽りの幸せを演じる女性が、己の問題と向き合わざるを得なくなる。とてもユニークな視点から人間の痛みと再生を丹念に描く作品だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

触感と色が物語を紡いでいく

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 映像が、触感によって物語を紡いでいく。その硬度、質感、色彩の織りなす世界の異様な美しさに息をのむ。主人公は、冷たく硬いガラス玉を摘んで、それを湿って柔らかい口の中に入れ、より暖かな体内の奥深くへと飲み込んでいく。そのガラス玉の硬さ、冷たさ、明るすぎる色彩は、主人公が無意識のうちに感じ取っている"現在の自分を取り巻く世界"の性質によく似ている。
 映画は、そんな主人公の目に映る世界を冷たい映像美で描きつつ、彼女がなぜ"異物"を飲み込まずにはいられないのかを少しずつ解き明かしていく謎解きミステリーにもなっている。その解明とともに、彼女が変わっていく。その静かな変貌もスリリングだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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