スプートニク (2020):映画短評
スプートニク (2020)ライター2人の平均評価: 4
しっかり考えられた登場人物とストーリーに引き込まれる
設定だけ聞くと「エイリアン」以後多く作られてきたパターンと思いがちだが、10分もすればそんなことは忘れる。冷戦下のソ連を舞台にした今作で本当に恐ろしいのは、国のためという名目なら人道をはずれた行為も厭わない軍の姿勢。登場人物はよく考えられていて、最初の印象と変わっていくし、内にクリーチャーを抱えるコンスタンチンと女医タチアナのやりとりも、その都度いくつかの思惑が交錯して複雑だ。話が進むにつれてタチアナの強さに感動させられ、コンスタンチンへの思い入れが強まっていく。クリーチャーは凶暴で恐ろしいが、防犯カメラの映像などを巧みに取り込み、実際にはあまり見せずして怖がらせるのも立派。
極めてポリティカルなロシア版『エイリアン』
舞台は1983年のロシア。任務から帰還した宇宙飛行士の体内に未知の生命体が発見され、両者を分離するため女性医師が協力するものの、やがて未知の生命体を巡る軍部の恐るべき思惑が浮かび上がっていく。これぞまさしくロシア版『エイリアン』。しかし、本作における恐怖の根源は実のところ凶暴なエイリアンでなく、体制維持のために個人の尊厳を平気で踏みにじる当時のソビエト社会そのものだ。さらに、正義よりも名誉を選んで国民的英雄となった宇宙飛行士と、名誉よりも正義を選んで異端児扱いされる女医を対比することでヒーローの意味を問う。ソビエト時代の知識がないと理解しづらい部分もあるが、プーチン政権下では挑戦的な内容だ。