犬は歌わない (2019):映画短評
犬は歌わない (2019)ライター3人の平均評価: 3.7
ノット・ネイチャー・ドキュメンタリー!!
『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』では最も悲惨な存在として言及されたスプートニク2号のライカ犬。宇宙に飛ばされた実験台の犬をモチーフに、現在のモスクワの街を生きる野良犬たちの生態を収めたドキュメンタリー。50年代当時のソ連の宇宙計画のアーカイヴ映像も挿入されるが、まさに異色のドッキングでSF&寓話的な広がりを獲得している。類似作が全く思いつかないが、あえて言うなら『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』か。
特に野良犬が猫を襲うシーンが印象に残る。自然界の弱肉強食が機能するサバンナとは異なり、モスクワの都市空間の犬は獲物を咬みきれない。文明化が無駄死にを生む頽廃のメタファーとしても秀逸だ。
もしも犬が話せたら、NOと吠えたと思う
前澤友作氏やジェフ・ベゾスらセレブが宇宙飛行を目指しているが、人間に先んじたのは野良犬ライカ。選ばれし野良犬にまつわる物語なども作られ、彼女にはエリート犬のイメージもある。しかし宇宙開発計画のアーカイブ映像を見る限り、被験犬の哀れなこと!? もしも犬が話せたら、「やめて!」と懇願したに違いない。人間の野望の犠牲になったとしか思えず、犬からしたら人間なんて友だちじゃねーよと思ってそう。そして、現代ロシアの街角で生きる野良犬の生活も過酷そのもの。街角では狩れる獲物が限られているとはいえ、「ええっ」と驚愕のシーンあり。宇宙でもストリートでも野良犬は辛いよ!
犬たちのいる場所が異世界のように見えてくる
映像がずっと詩のように美しい。雨上がりの人間が誰もいない濡れた舗道を、犬が音もなく歩いていく。どこにでもありそうなそうした光景が、この映画ではまるで異世界の風景のように見える。
映画が描くものは単純ではない。画面には、かつて人間が犬に行った事を映し出す記録映像のようにもSF映画のようにも見える映像と、現在のモスクワの路上で生きる犬たちの日々の行動を静かに追い続ける映像の双方が映し出され、それを見ているとつい、犬の行動理由を人間の尺度で解釈したくなるのだが、彼らの次の行動がその解釈を裏切る。理解しているつもりで実は理解不能なものが美しく、時に恐ろしくも見える。