サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時) (2021):映画短評
サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時) (2021)ライター6人の平均評価: 4.8
ハーレムの夏、革命の季節、黒人音楽の祭典
前年のキング牧師暗殺を契機にブラックパンサー党が勢力を増し、革命闘争の気運が高まりつつあった’69年の夏。ニューヨークのハーレムで大規模音楽フェスが開催された。これは、長いこと封印されていたその記録映像を再編集したドキュメンタリー。スティーヴィー・ワンダーにB・B・キングなど錚々たる出演者の顔ぶれにワクワクするが、中でも当時の黒人市民の怒りと不満と夢と希望を代弁するスライ&ザ・ファミリー・ストーンやニナ・シモンのライブは圧巻。モンゴ・サンタマリアなどラテン系大御所の登場にもハーレムの人種構成が投影される。当時のニュース映像なども織り込まれ、BLMの原点がここにあることを実感できるだろう。
現代に届けられた、パワフルな映像タイムカプセル
1969年の知られざるブラックミュージック・フェスの映像。若きスティーヴィー・ワンダーやスライがいて、それだけでも音楽ファンには有難い。が、映画は単に貴重なだけではない。
発掘映像をもとに当時を知る人々の証言を集めて、歴史がうねった時代を検証。人種差別や貧困問題。戦争に対して、声を上げた人々の勇姿が浮き彫りになる。
発掘されたライブ映像ではアーティストたちのパフォーマンスも、観客の反応も情熱的だ。半世紀を経て、今を生きる人々にそれがあるか? 半世紀を経た分、社会は進化したのか? そんなことを考えさせるクエストラブ監督の才腕。音楽と社会、過去と現在を結び付ける、ドキュメンタリーの傑作。
BLMは1969年の夏、ハーレムから始まった!
ご贔屓ミュージシャン、クエストラブの監督作というだけで興味津々だったが、BLM運動につながる黒人パワーの息吹を感じさせるドキュメンタリーに仕上がっていた。 若々しいスティーヴィー・ワンダーやニーナ・シモンが熱唱し、ゴスペルやモータウン、さらにはラテンと幅広いジャンルの音楽を網羅しながらも歴史に埋もれた音楽フェスの意義とは? “ハーレム・カルチュラル・フェスティバル“を軸に音楽だけでなくカルチャー、ファッション、社会情勢とクエストラブ監督は多角的に黒人史に焦点を当てる。「ニューヨーク・タイムズ」紙記者のS・ハンター=ゴウトと編集長の黒人表記をめぐるバトルなど、知られざる逸話の宝庫でもある。
お宝映像の「発掘」という点で、史上まれにみるプレシャス感
1969年から眠ったままの伝説のフェス映像だが、音も映像もクリアに修復され、シンプルに没入感を味わえる。登場するアーティストを知る人なら、映像の貴重さと、時を経ても伝わるパワフルな歌唱に感涙必然。ほとんど知らない人にとっても、たとえばゴスペルの女王、マヘリア・ジャクソンのパフォーマンスなどは本能レベルで陶酔と衝撃に震えるはず。
半世紀前の映像を、本人がしみじみ振り返る、新たな「演出」部分も押し付けがましくなく、ライヴのテンションを削がない。現在のBLMにつながる流れや、アポロ月面着陸とのリンクなど、歴史的遺産としての意味を噛みしめつつ、行く夏の名残りとともにフェスの原点に浸らせてくれる逸品だ。
彼らの誇りとアイデンティティのパワーに圧倒される
信じられないほど豪華な出演陣。観客もこんなに集まった大盛況イベントだったのに、黒人だからと歴史で葬り去られていたということ自体が、アメリカ社会のリアルを伝える。しかし、市民権運動が高まる中のその時、その場所は彼らの強い誇りとアイデンティティに満ち溢れていた。ちょうどアメリカが月にアポロ11号を送り込んだ頃だったが、そこにいる人たちにとっては、コミュニティが結束するこのイベントのほうがずっと大事だったのだ。彼らのそんな思いとパワーに、圧倒され、強く心を動かされる。純粋にすばらしい音楽を楽しむだけでなく、貴重な歴史のひとコマを見られる、優れたドキュメンタリー。
アメイジング・グレイス、もう一発!
まさしく歴史のオルタナティヴ。あのウッドストックがあくまで白人中心の祭典だったとでも告げるように、同じ1969年夏のNYで催された「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の記録フィルムが蘇る。スティーヴィー・ワンダーからスライ&ザ・ファミリー・ストーンまで、言わばこの「ブラック・ウッドストック」はニューソウルの季節の本格到来を告げる画期点でもある。
ザ・ルーツのドラマー、クエストラヴが初監督に当たり、現在の視座から逆算した構成もいい。会場の警備を務めた元ブラックパンサー党員の証言等も交えることができた。『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』といい、幻のアーカイヴ発掘の奇跡が続く!