異動辞令は音楽隊! (2022):映画短評
異動辞令は音楽隊! (2022)ライター4人の平均評価: 3.5
意外にもシビアな視点の貫かれた社会派コメディ
犯人逮捕のためなら違法行為やパワハラも当たり前!男だったら家庭よりも仕事を最優先!という時代遅れな「昭和の熱血刑事」が、それゆえ捜査の第一線から警察音楽隊へ異動させられ、いかに自分が身勝手で協調性のない自己中人間であったかを思い知らされる。と同時に周囲の人々もまた、コンプライアンスや合理性ばかりを重視する現代社会が失った大切なものを、昔気質な主人公から学んでいく…という点がミソ。基本路線はハートウォーミングな人情喜劇だが、しかしそこはさすが内田英治監督、社会の不条理やマイノリティの痛みを描く目は非常にシビアで、締めるべきところはきっちりと締めている。社会派コメディの秀作と言えよう。
阿部寛のキャリアを凝縮したような、彼じゃなきゃ成立しない適役
是枝作品における家族とぎくしゃくし、冴えない現実も滲ませる役どころ。または「テルマエ・ロマエ」でのカリスマ性とコメディアンの絶妙な紙一重。あるいは「ドラゴン桜」の熱さ…と、阿部寛のさまざまな記憶が本作の刑事・成瀬に憑依した印象。昔気質の強引な捜査っぷり、意に反してドラム演奏を任されての悲哀、ギャップが際立つはずのキュートなアイテムとの相性など、他の俳優では想像できない役との“一体感”に惚れぼれする。
感動を誘う描写のやりすぎ感や、テンション上がるべきシーンの呆気なさ、音楽が作り出す力など、いくつか気になる箇所はあるものの、すべて主演俳優の魅力でカバーする。最近の邦画では貴重な「スター映画」。
演者吹替えなしの演奏は必見
お約束な設定だが、かなり凶悪な「アポ電強盗事件」に加え、認知症である母親や思春期の一人娘との確執など、タイトルからは想像がつかないシリアス展開が続く。そんな社会派でもある内田英治監督作らしさが評価の分かれどころといえるだろう。そんななか、不器用すぎる主人公を阿部寛が演じれば、作品が締まるのは当然で、『キングダム2』の縛虎申から一転、ラフィンノーズ信者を演じる渋川清彦や、理由あってやさぐれている高杉真宙との絡みなどでは、興味深い化学反応が起きている。意外な人物が演じる真犯人が明らかになり、演者吹替えなしの演奏会へと至るクライマックスに関しては、申し分なしといったところ。
大人の部活動
行き過ぎ捜査も辞さない鬼刑事が警察音楽隊のドラマーに。『ミッドナイトスワン』の後の作品ということで、内田英治監督がどんな題材、どんな演出にしてくるのかとあれこれ思いましたが、非常に王道な題材、オーソドックスな演出の作品を持ってきてくれました。原案・脚本・監督全部を兼任している内田監督のふり幅、懐の広さを感じることができる一本です。
警察モノとしてもしっかりとした決着が用意されていますし、音楽モノなのでラストの演奏シーンは素直に心躍ります。清野菜名と磯村勇斗の重要な若手と阿部寛の絡みも巧く機能しています。