Shari (2021):映画短評
Shari (2021)ライター2人の平均評価: 4
民話と怪獣映画が融合し、珍妙さ爆発
これまでブッ飛んだ短編を放ってきた吉開菜央監督が、撮影に写真家・石川直樹を迎えた長編デビュー作。羊飼いのパン屋や元酪農家の木彫りコレクター、海のゴミを拾う漁師ら、知床半島・斜里町で自然と共生している彼らの日常に密着したドキュメンタリー。かと思いきや、監督自身が演じる“赤いやつ”が登場。環境問題などのメッセージが含まれたヒトとケモノのあいだの生き物が、さまざまな境界線を彷徨う姿は、民話と怪獣映画が融合し、珍妙さ爆発。ホラーだった前作『Grand Bouquet』ほどの狂気は感じないが、“赤いやつ”が子ども相撲に乱入するどっきり展開など、ほのぼのとトラウマが融合した怪作といえる。
ドキュメンタリーとフィクションを行き来するユニークな映像体験
日本の最北端に位置する知床半島の斜里町を舞台に、そこに暮らす人々の素朴な生活に密着し、確実に忍び寄りつつある気候変動の影響などを取材しつつ、その中へ言葉を喋らぬ奇妙なモンスター「赤いやつ」を放り込むことで、厳しくも雄大な自然と共存してきた知床の歴史と伝統を浮かび上がらせていく。ドキュメンタリーとフィクションの間を自在に行き交うユニークな作風は、世界中の人々が大自然への畏敬の念を民間伝承に託し、その不思議な世界と隣り合わせで生きてきた「暮らしの原点」を想起させる。言い知れぬ懐かしさのようなものを感じるのはそのせいだろう。緻密に計算された音響デザインを含め、これは五感で体感する映画だ。