リスペクト (2021):映画短評
リスペクト (2021)ライター5人の平均評価: 3.4
ジェニファー・ハドソンは文句なし!
複雑な家庭環境やDV夫の修羅場など、栄光を手にしたミュージシャンの伝記映画の定番という流れのなか、圧倒的な歌唱力でアレサ・フランクリンを演じたジェニファー・ハドソンは文句なし! 彼女の前に候補に挙がっていたハル・ベリーよりも適任だったといえるだろう。また、泣かせに徹しているラストからエンドロールにかけての演出も悪くない。とにかく146分の長尺にしてはサクサクと話が進んで観やすいのだが、公民権運動やアル中克服などにおけるアレサの感情の流れがしっかり描かれておらず、駆け足すぎるエピソードが目立ったのは悔やまれるところ。そのあたりも含め、長編デビュー作となったリースル・トミー監督の限界にも感じる。
ソウルの女王が指名した後継者の熱唱をリスペクト
ソウルの女王、アレサ・フランクリンの人生を映画化するのに、前半生だけとはいえ142分は短すぎた。スターダムを確立する過程での紆余曲折始め、アレサの人生が波瀾万丈すぎるのだ。両親の不仲が幼い少女に与えた影響から始まり、支配的な父親やDV夫との関係性、キング牧師への協力、スターにありがちなストレスとの戦いなどなど。先に見た同じ題材のTVシリーズと比較してしまい、彼女の公民権運動への貢献にはもっと時間を割いてもよかったのではないかと感じた。とはいえ、生前にアレサがヒロインに指名したJ・ハドソンは大熱演。アレサの魂が乗り移ったかのようなソウルフルな歌唱力をただひたすらリスペクトするのみ!
男性上位時代を傷だらけで駆け抜けた歌姫の記録
アレサの伝記本『リスペクト』を読んで興味深かったのは彼女が幼くして出産を体験し、それを自身も親類も語りたがらなかったこと。彼女と家族にとってタブーだったのだ。
本作では、そのタブーをうまく機能させながら、アレサという女性が男性上位社会でいかに格闘してきたかを見据える。父親からの折檻もあれば夫からのDVもある。そして性的虐待も……。
話だけを追うとかなり重いが、それを解放するのはアレサの名曲の数々だ。時に怒り、時に愛を語り、時に神に感謝する。歌うことこそ彼女にはカタルシス。アレサが乗り移ったかのように熱唱するJ・ハドソンの熱演も素晴らしい。
稀にみる超絶パフォーマンスなのは、誰もが認めるはず
アレサ・フランクリンが生前に指名しただけあって、ジェニファー・ハドソンの再現度は神がかり的。単なるモノマネではなく、ジェニファー自身の表現力、パワフルな歌唱力が加味され、熱狂のステージ、圧倒的パフォーマンスが何度も押し寄せてくる感覚だ。詳しく知らない人も「これもアレサの曲だったのか」と感嘆し、音楽史に残る偉業を実感するはず。
若くして母親になり、キング牧師への賛同、DV夫との離れがたい関係、歌手としてのプライド、やりたい音楽への苦悩、アルコール依存と、ドラマチックな運命を映画も全力で駆け抜けるので、“ソウルの女王”の人生がどれだけ濃密だったのか改めて感服し、エンドロールで拍手を贈りたくなる。
ドキュメンタリーと合わせて見るとなおさら感動
1952年から1972年の20年に絞った半生の物語。ドキュメンタリー「アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン」を見ている人には、そこに至る背景がわかる上、シーンが重なって心がときめくはず。あの日までの道のりは、辛く、複雑だったのだ。歌が抜群なのは言うまでもないが、恋の初めの誘惑的な彼女、DV夫にコントロールされる彼女、人生のどん底に落ちた彼女を演じるジェニファー・ハドソンは実に見事。音楽の伝記映画としてはベーシックな今作を引き上げているのがハドソンなのは明らか。さすがにフランクリン本人に選ばれただけのことはある。彼女のアクティビストとしての側面がしっかり語られているのもいい。