軍艦少年 (2021):映画短評
軍艦少年 (2021)ライター3人の平均評価: 3
どれだけ大切なものを失っても前を向いて生きていくしかない
軍艦島が見える長崎県の田舎町を舞台に、最愛の母親が亡くなったことで壊れかけた父子の絆の再生を描く。主人公・海星の両親が軍艦島の出身という設定から、「故郷」と「家族」という二重の喪失感を物語の背景にしつつ、どれだけ大切なものを失ったとしても人は前を向いて生きていくしかないという普遍的なテーマが描かれる。と同時に、男気の塊みたいな父親と息子のどん底からの再生ドラマを通じて、「男らしさ」とは何なのかという問いも投げかけられているように感じる。分かりづらい時代設定など詰めの甘さも否めないが、奇をてらわないストレートな語り口は好感が持てる。
「ハイロー」テッツとは違う佐藤寛太が魅せる男気
「ガキ☆ロック」などのヤンキー漫画でおなじみの柳内大樹の原作だけに、その要素もあるにはあるが、物語の主軸となるのは、愛する人を失った父と子による葛藤と再生。「ハイロー」でのコミカルなテッツの印象が強い佐藤寛太だが、今回はガチで男気のある主人公・海星を熱演する。それに対し、ボロボロになっていく父役の加藤雅也、聖母のような存在感を放つ母役の大塚寧々、彼らを温かく見守る旧友役の赤井英和などのベテラン陣が、しっかりサポート。展開的にはかなり王道ともいえるが、クライマックスに登場する軍艦島でのロケーションは、とにかく圧巻。卓真による10-FEETとは一味違うメロディアスな主題歌も染みる。
ためこんだ思いを全身で伝える佐藤寛太
大切な家族が失われつつあり、残される者の悲しみ、立ち直れそうにないドラマは、既視感あって絵に描いたように想定内。しかし、そこにエネルギーを注入するのは、若い俳優たちの活き活きとした存在感で、とくにケンカのめちゃくちゃ強い主人公を演じる佐藤寛太は、その強さを説得力ある動きでみせる。
世界文化遺産に登録された後、初の映画ロケとあって、軍艦島の廃墟シーンには撮る側の渾身の思いも宿っており、なかなかに壮観で深遠。その渾身さが、たたずむ佐藤寛太に伝わり、妖しく心ざわめく映像になった。
敵となる街のチンピラたちの造形がパターン化してるのは残念だが、原作コミックの実体化として、これはこれでわかりやすい。